2017.01.24
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噴出するポピュリズムと政治〈上〉 |
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東京学芸大学教授 李 修京
外国人排斥の流れ
新年早々、各国のメディアを賑わせたのは、国境を跨ぐグローバル時代の弊害現象≠ネいし多文化現象≠フ一つとして露呈されたポピュリズムの大乱時代の到来を懸念の声であった。確かに昨年は周知の通り、激動と異変続きの1年であった。ロシアの強引なウクライナ支配をめぐる米ロ緊張関係を始め、シリア、アフガニスタン、ソマリアなどで生じた戦争・紛争とISらによるテロの多発、それによる現地の犠牲者続出と難民の流出、イギリスの脱EU(Brexit)通告、フィリピンのドゥテルテ大統領の極端な犯罪者処刑、韓国の朴槿恵大統領の弾劾訴追、さらに米大統領選でのドナルド・トランプの予想外の当選など、実に揺動する年であった。
とくに近年の日本でも国連人権委員会から非道な行為として指摘された人種差別的ヘイトスピーチだが、世界の警察官を標ぼうするアメリカ大統領の候補にもかかわらず、有色人種への差別発言や自民族優越主義に浸った外国人排斥の暴言を吐きつつも第45代目の大統領として選ばれたトランプの危険な台頭に、心ある世界の市民たちは衝撃を覚えた。
眠り込む民主主義
普遍的モラルやヒューマニズムの尊重の精神より、白人中心の製造業者らの雇用創出を訴える戦略をアメリカ社会が選択した結果となったのである。ドイツのジャーナリストJakob Augsteinの言葉を借りると、自由民主主義が眠るため誕生した悪魔であろうか。
そのトランプの自国優先政策の圧迫はすでに現れ、1月6日にはメキシコにカローラ工場を建てようとするトヨタに対し、アメリカでの工場建設でなければ大きい国境税(bigborder
tax)を支払うように警告を発している。
また、アメリカの産業保護策を掲げつつTPPやNAFTA(北米自由貿易協定)にも反対しており、外国の輸入品への高関税を求めている。軍事面でも軍産複合体による武器製造・輸出や核戦力の強化などで軍事産業の拡大をも示唆している。これは多くの米軍を抱えている日本や韓国、東南アジアなどに強い影響が出る恐れがある。
自国中心主義の席巻
一方、そもそもアメリカの世界市場戦略の一環として展開されたグローバリズムより、自国利益だけを目論んだアメリカニズムを唱え、シリアなどからの難民や移民の受け入れは否定する強い排外主義を示している。二度の世界大戦によって未曾有の犠牲者や弱者層の基本的人権が問われ、ルーズベルト夫人の力説で採択された世界人権宣言≠フ趣旨は欧米の自国至上主義を唱えるポピュリストによって黒い影になりかけている。
むろん、大国との利権絡みの戦争・紛争によって定住地を追われた難民の数は凄まじく、彼らは生きるために陸路やドーバー海峡のトンネルや海を渡る。生きようとして危険な旅路を選んだものの、途中で命を落とすことも多々生じている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の発表によれば、世界の難民や難民申請者数は戦後最多の6530万人に上っている。そして、阿鼻叫喚の地獄から平和と安定を渇望する難民たちは、経済力や福祉が整ったドイツや北欧などでの居住を希望する。
しかし、昨今のISによるテロや異文化出身の彼らのためのインフラ整備が用意されてないため現地人との生活環境の違いから生じる衝突などによって、移民・難民を排斥しようとするトランプ同様の極右勢力や反移民政策を支持するポピュリズムの動きが広がっている。もちろん背景には経済格差や雇用問題など、様々な要素が作用している。
だが、異文化出身者に対する偏見と差別を内在した自国中心主義のポピュリズムによる政治が大衆迎合的に世界規模での展開を懸念せざるを得ない。何も持たないまま逃げてきた難民。彼らは難民申請が認められ、その社会の構成員になったとしても、多くが3K職などの仕事に就き、大半が低・中所得層として生活する。 |
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