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 2017.01.31
国際移動人口の増加と格差≠フ隙間から
噴出するポピュリズムと政治〈下〉


 東京学芸大学教授 李 修京

 
 自国中心主義が蔓延
 
 欧州で難民・移民排斥を煽る

 宗教や民族を口実

 
宗教や民族を口実にする一部特権階級の利権絡みの紛争・内戦の犠牲の多くは常に弱者層である。犬死を免れたい一心で戦場から逃れて来た難民に追い打ちをかけるのは、いわゆる持つ側≠フ偏見と差別行為である。
 これらに類似した行為は我々の近くでも多々見られる。豊かな先進国を標ぼうする日本でさえ3・11以後、原発と放射能汚染の危険性への無理解のため福島からの避難者に対する風評被害が酷く、福島の子どもの公園出入り禁止や保育園拒否、学校でのシカトなどの差別行為や、マイノリティに対するヘイトスピーチで多くの人々が傷つけられている。 ましてや、文無しの身体一つで殺戮の戦場から異文化に逃れてきた傷だらけの人々はどんな思いであろうか。外国人だから∞文化や宗教や肌色が違うから≠ネどを理由に、他者#r斥のガラスの壁を作り、社会の片隅に置かれる気持ちはどれほど惨めであろうか。
 行き場を失った難民の暮らしを支えつつ、共に発展できる社会構築に智慧を結集すべき先進諸国の品格を期待したいのだが、資本主義の倫理が欠けてしまった国家は自国利益の追求に余念がない。
 世界経済フォーラムのダボス会議で大きく問われたのは、堕落した資本主義の象徴的存在であり、堕落した資本主義から量産された社会の疎外者たちを煽りたて、排他的ポピュリズムを用いて政治的基盤を構築したトランプ政権の台頭であった。
 そして、経済的倫理性の欠如を露呈し、移民・難民規制政策優先とEU脱退を宣伝しつつ、積極的なEUとの自由貿易協定も唱えるイギリスのハード・ブラックシート≠フ矛盾であった。
 相対的貧困の格差 1981 年にイギリス市民権を明確にする国籍法を制定し、200 5年には熟練(専門)労働者を受け入れては見せるものの、イギリスの外国人移民・難民の受け入れは依然と厳しい。 今回のブラックシートによってこれまで就労の制限がなかった欧州経済・地域(EEA)の加盟国民に対する対応にも、なんらかの変化が見られそうだ。何より、イギリスのように経済移民や難民の受け入れを拒否し、自国中心主義を唱える動きがヨーロッパ各地で蔓延しているのが不気味でならない。
 例えば、フランスの国民戦線党(FN)やオランダの自由党、ドイツのドイツのための代案(AfD)、オーストリアの自由党などの極右政党は難民・移民規制や反イスラム主義、グローバル化に伴う労働人口の移動や多文化共生社会化に反対を示している。
 それらの政党を支えるポピュリズム勢力の拡張は、今年開かれる各国の選挙にも大きく響きそうだ。
 EUの最大経済国であるフランスの地方選では極右ポピュリズムの政党が第一党になる予想である。それに、3月のオランダ総選挙(極右自由党勢力)や4月のフランス大統領選(FNの政権獲得)、5月のイギリス地方選(極右のイギリス独立党の勢力)、9月のノルウェー総選挙(右派ポピュリズム政党の勢力)、10月のドイツ総選挙(極右のAfD勢力)にイタリア早期総選挙などに、ポピュリズムに庇護される極右勢力の展開が懸念されている。
 欧米主導のグローバル化による資本の移動と企業の利潤追求の結果、既存の仕事減少で失業者が増加し、社会的疎外から相対的貧困の格差に生活不満を抱く人々を利用する金権(資本と権力)癒着政治が難民・移民排斥のポピュリズムを煽り出している。
 資本主義の倫理、とくに先進諸国のグローバル企業の品格とポピュリズム政治の相関性が真剣に問われる一年になりそうだ。
 長きにわたる堕落した資本主義の展開に対して、われわれは今、人類史上の叡智を結集しなければならない大きな岐路に立っている。