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 2017.03.07
韓国「少女像」問題と安倍内閣の歴史認識・軍事大国化・右傾化批判(上)
軍事大国化志向と右傾化


                  女性史研究家 鈴木裕子       
 元「慰安婦」の受難刻む 少女像平和を祈念する

 釜山に少女像設置


 最近、韓国釜山市に新たな「慰安婦」少女像が建立された。一昨年12月28日のいわゆる「日韓合意」に反対する市民団体が1月31日、在釜山日本総領事館前の歩道に設置、除幕式を開催した。
 日本政府は、従前より「少女像」撤去を韓国政府に要求していた。その理由として、一つは、「日韓合意」により、日本政府は、10億円を拠出したのだから、少女像撤去が、「合意」の履行事項とし、さらに外国公館の威厳保持を定めたウィーン条約に抵触する可能性があるとし、強硬な姿勢を取り続けている。
 弾劾された朴槿恵大統領は実務を離れているが、与党セヌリ党内閣は、「政府と該当自治体、市民団体などの当事者が適切な場所について、知恵を集めることを期待する」(『東京新聞』17年1月1日)という腰折れの対応を示し、市当局により強制撤去された。
 倉田智恵子氏によれば、この少女像は、「未来世代が建てる少女像推進委員会」が一人デモを行って制作金を募集、設立目標額7500万ウォンを大きく上回る8500マンウォン(820万円)が寄せられた(「少女像設置に日本政府が恥ずべき対応」『思想運動』第995号・17年2月1日)。
 少女像は、「日本軍性奴隷」として、性的蹂躙、人権侵害、女性としての矜持を傷つけられた元「慰安婦」被害者の受けた苦痛・受難を心と歴史に刻むため、戦争を再発させないために建立されたものであった。安倍首相はじめ日本の政治家の大半が、そうとは理解せず、その言動はさらに被害者の傷口に塩をぬっているようなものだ。わたくしは、加害国日本の一市民として恥ずべきことと思う。
 先の倉田氏は、少女像を「平和を祈念するため」どころか「日本を批判するシンボル」としてしか見ていないという。わたくしも同感である。さらに、倉田氏はウィーン条約第二二条第二項を引いて「接受国は侵入または損壊に対し使節団の公館を保護するため、および公館の安寧の妨害等のため適当なすべての措置を執る」と言い、日本政府は繰り返し非難している。
 しかしこの条約二二条は、暴力を伴った過激な行為に及ぶ場合を安寧妨害という捉え方が世界的な通常解釈であるとする。わたくしも倉田氏同様、日本の政治支配者がこれほど少女像を恐れるのは、日本軍「性奴隷」制がいかに重大な戦争犯罪であり、その解決にむけて法的・公的責任を履行せず、安倍首相みずから「お詫び」もしたくない、という姿勢を如実に示しているといえ、その傲慢ぶりが顕著である。


 安倍政権の少女像の撤去に対する日本市民の良心的な声


 1月8日、安倍晋三首相は、NHKの番組で「日韓合意」について、「たとえ政権が代わろうとも実行するのが国の信用の問題」と述べ、ソウルの日本大使館前に設置された「少女像」の移転、新たに設置された釜山の日本総領事館前の少女像を含め、撤去への努力は「当然」と言い放った(『東京新聞』1月9日付「慰安婦問題で首相 少女像の撤去 『韓国は誠意を』」)。
  こうした安倍氏の対応に対し、東京都江東区在住の主婦永井暁子氏は、日本大使館のスタッフが「少女像に過敏に反応」するよりも戦争被害者に「誠意を尽くす」べき、千葉市のアルバイト吉井新氏は、「過去の歴史を無視した『日韓合意』など誰も納得しない、安倍首相は『慰安婦』像撤去」に関し韓国側に、すでに合意をしているのだから誠意を示せという。「何と傲慢な恥ずべき態度なのか」と批判している(『東京新聞』1月13 日および19日)。
 評論家の斎藤美奈子氏も『東京新聞』の「本音のコラム」で、日本政府は、釜山市の日本総領事館前に少女像が設置されたことの対抗措置として、駐韓大使と釜山総領事の一時帰国を決定。安倍首相は「韓国に誠意を示して」ほしい、と言い、菅官房長官は「国と国の約束」なので実行してほしいと言い、岸田外相も日韓合意の着実な実施を求めたい、と述べた。要するに「十億円も払って慰安婦の件は蒸し返さないと約束したのに何だよこれは!」。そう言いたいのだろう。
 第一に日韓の認識の違い、日本側は「慰安婦問題」を二国間のトラブルとしか見ていない。韓国民にしてみれば被害者という意識が強い。金を払ったんだからもう黙れと言われるのは心外だろう。
 第二に少女像を設置したのは市民団体であり、政府の責任で撤去しろと迫られても、「じゃあ市民の自由な活動を弾圧しろ?」という話である」(「火に油の外交」『東京新聞』1月11日)と批判している。  斎藤氏が説くように、安倍内閣の外交政策はまことに拙劣極まりなく、強国に対しては膝まずき、過去100年以上にわたり被害を与えた他国の民衆に対しては、不道徳かつ奢りの姿勢に終始している。まことに一日本人として恥ずかしい限りである。