2017.04.11
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憲法の重み(上) |
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「米の分断」嘆く日本の報道
国や宗教で移民差別は憲法違反
山口県立大学教授井竿富雄
世界は激動が続いている。そして、日本の政治も突然波風が立ち始めた。ただ、日本の激動は、瑣末な出来事に引きずられて、問題の本質から国民世論が離れはじめているような気もする。
そのうち、日本だけは違う方向で決着がつくような、そんな予感もしているのだ。論点がずらされ、新しい事件が起きて耳目が移る。そして事態は元に戻る。
貴国の政策に学んだ
アメリカのトランプ政権には、「ハネムーン期間」はなかった。大統領就任から2カ月経過して、今の時点で成し遂げたことはほとんどない(なんと人事も終わっていない)。大統領令を乱発し、国民から反発されている。大統領令で最も騒がれたのは「特定国からの入国停止・ビザの廃棄・難民受け入れ停止」である。
一部州政府が大統領令は憲法違反ではないかと提訴し、裁判所が違憲判決を出して大統領令停止の事態に至った。
この大統領令に対しては、トランプ大統領自身が異常に執着し、修正した大統領令を発布したのだが、これまた憲法違反の判決で停止されてしまった。
このようなことをやることは、誰もが予測の範囲内であった。そのため、主要な先進国は、おずおずとでもトランプ政権に対して何らかの意思表示をした。NAFTA(北米自由貿易協定)再改定に応じたカナダですら、首脳会談後の記者会見で「わが国は難民・移民を受け入れる」と言い、意見の相違があることを隠さなかった。
しかし、日本はそうしなかった。「内政にかかわることはコメントしない」と一貫して態度表明を拒み続けた。トランプ政権に安倍首相が大歓待されたのは、その一言もあったためであろうか(もちろん支払いはそれでは済んでいないと考える)。
とはいえ、日本が何か言ったとしても、トランプ大統領は一言こういえばよいのであった。「私は貴国の政策に学んだだけですが」。
日本はヨーロッパの極右政党が羨望する移民政策の国である。3月20日の『日本経済新聞』の一面は、「高度外国人材」なる制度の話だった。大学院以上の学歴を保持し、年齢が若い外国人を点数付けしてランク分けし、一定ランク以上のもののみ歓迎するという制度が日本にある。日本だけではなく、他国にも存在する制度である。「こういう人材が選んでくれるような国にしなければならない」という趣旨で書かれていた。
現行の難民受け入れ拒否政策と合わせてみれば、「日本は金になる人以外いりません」と高らかに宣言しているのと変わらない。移民を国や宗教で差別するのは憲法違反だ、というアメリカ市民の姿を映して「アメリカの分断」を嘆いて見せる日本の報道はどこかが違っているのだ。かといって、トランプ批判に乗じて新自由主義への再帰を狙う論調にもやはり注意が必要である。
財閥向けられた批判
同じことは、隣国韓国の政治に対する報道ぶりでもうかがえた。韓国の政治で何が起こったかについては説明を要しない。あれは単なる私人の政権介入というだけではない。市民の視線は、財閥が韓国の政治経済体制の中で憲法より上に立つことへの批判に向けられていた。
かつて大統領選挙討論会で「李健煕(三星財閥総帥)を憲法に従わせる」と言った候補者がいた。財閥は国家よりも上にある、と指摘したのであった。そののち朴槿恵政権下で「従北」とされ憲法裁判所の判決で解党させられた統合進歩党の候補ではなかったかと思う。
しかし、統合進歩党を叩き壊した韓国憲法裁判所は、ついに大統領罷免の宣告を下したのである。日本でも紹介された判決文では、大統領は憲法の守り手としての任を果たしていない、ということが弾劾の理由だった。
この過程で、すさまじい市民の怒りが動き出していたことはよく知られたことである。「ろうそくデモ」が続けられ、中学生までが町に出て自己の政治的主張を口にしていた。大統領支持派もまた町に出て、自己の主張を展開していた。 |
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