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 2017.04.18
軍学共同〈下〉
その背景


 研究者版「経済的徴兵制」の構造

 研究費の調達は自前で



 「軍学共同」の〈上〉で、豊橋技術大の加藤亮助教が「ナノファイバーを利用した有毒ガス吸着シート」の開発で一昨年度、「防毒マスクの軽量化につながる」と防衛省の資金援助制度に採用され、475万円を獲得したことを紹介したが、加藤助教は「この制度でなくても研究ができるなら応募しなかった」と複雑な心境を吐露している(昨年5月23日付『毎日新聞』)。
 分析化学を専門にする加藤助教のこの研究は、極めて細い特殊な炭素繊維でフィルターを作り、繊維自体で有毒物質を化学変化させて無害化するというもので、「この技術を生かせば、人体に有害なガスを繊維に吸着させる今までにない防毒マスクができる」(加藤助教)。防衛省はこれを「自衛隊の防毒マスクの軽量化につながる」と高く評価した。  加藤助教の研究は、政府・防衛省が安全保障を名目に大学などの研究機関で進めようとしている「デュアルユース(軍民両用) 研究」にまさにうってつけと言えるだろう。
 加藤助教が「研究費が足りないから紐付き助成に手を出さざるを得ない」と、心ならずも防衛省の資金援助制度に応募したのは、大学から支給される研究費がわずか年間18万円というあまりにも少ない事情がある。実験機材や材料を買うのもままならず、不足分は自分で調達しなくてはならないという。

* 日本の大学の研究費が少ないという問題は、今や国際的に有名な?事実になっている。英国の総合科学誌『ネイチャー』は3月23日、「日本の著者による論文数が過去5年間で8%減少し、日本の科学研究は失速している」と発表し、「日本政府が研究開発への支出を手控えた状況が反映された」と指摘している。
 学術誌68誌に掲載された論文の筆者が、どの国出身で、どんな研究機関所属しているかをまとめたデータベースを調べたもので、過去5年間で、中国の論文数が48%、英国が17%伸びた一方で日本は8%減ったとしている。研究開発費への支出額もドイツや中国、韓国が大幅に増やす一方、日本は01年以降、ほぼ横ばいという。

* 日本の研究開発費が「横ばい」の原因の一つに、国立大学が04年に「独立行政法人化」され、“ 自立的な運営”が求められるようになったことがある。
 独法化で収入の3〜4割を占めていた文部科学省からの「運営費交付金」が年間1〜2%の割合で削減され続けた結果、04年度に1兆2400億円だったものが、16年度には1兆900億円と、12年間で1500億円(12%)減った。このため大学の研究者は競争的資金である「科学研究費」や企業や防衛省などからの「外部資金」に頼らざるを得なくなったのである。
 宇宙物理学者で「軍学共同反対アピール署名代表」の池内了さんは、「今の科学技術政策は、“選択と集中”で、多くの分野では研究者が研究資金を奪い合う状況にある。そんな中で、研究者版の“経済的徴兵制”と言うべき構造が生まれている」と指摘。
 さらに、「軍事研究は、憲法23条で保障されている学問の自由を脅かす懸念がある。戦前・戦中の科学者たちが、科学の発展や国を守るためと信じて、倫理の道を踏み外した。自分の研究が平和を破壊する方向に使われていないか、常に問いかける必要がある」と述べている。