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 2018.05.08

改憲4項目案の危険性と欺瞞性
自民党改憲案と3000万署名運動
大阪経済法科 大学教授 澤野義一

本年度中の改憲発議方針
当面のたたき台 
 自民党は3月25日の党大会で2018年度の運動方針として、改憲発議をめざすことを決定、昨年5月に安倍首相が提案してから党内で論議されてきた改憲4項目の「条文素案」を提示した。安倍首相の意向をくんで、改憲を早急に進めるための当面のたたき台である。
 改憲4項目として、①9条への自衛隊明記、②緊急事態条項の新設、③参院選の合区解消規定の導入、④教育の充実規定の追加が提案されているが、①と②は国民の支持を得やすくするため、本来の改憲草案(2012年自民党改憲草案)実現の突破口として、ハードルを下げた第一段階の「お試し改憲」案である。③は2016年の参院選の合区を解消する口実で提案された「お試し改憲」案である。④は国民や日本維新の会から支持されやすい教育の「無償化」を「充実」にトーンダウンさせた「お試し改憲」案として提示されている。
 いずれにしても、本来の意図を隠した危険で欺瞞的な改憲案である。
 改憲4項目案の問題点。 

問題点は何か 
 ①9条への自衛隊明記 改憲案は現行憲法9条を維持した上で、9条の二において、自衛隊を「必要な自衛の措置をとる」ことができる合憲の「実力組織」として明記するが、これは、自衛隊が自衛権(個別的および集団的自衛権を含む)に基づいて、国内外で武力行使(戦争)ができることを可能とする。
 自衛隊が違憲の「戦力」とされる余地は残るが、必要最小限の自衛力や自衛権行使が認められるとの政府(内閣法制局) 見解の下で、安保関連法(戦争法)による外国軍隊との共同防衛や、必要最小限の核兵器の保有・使用等もすでに可能と解されてきているから、9条2項は事実上空文化される。
 ②緊急事態条項の新設 本来の改憲草案は、包括的な緊急事態の武力攻撃・内乱・大規模自然災害に対し、政令により私権(人権)制限や自治体への協力指示を可能としているが、ナチス憲法と類似しているとの批判をかわすため、改憲案では、緊急事態を「大規模災害」に換言している。
 しかし、そこには自然災害だけでなく武力攻撃災害等も含みうる余地があり、①の自衛隊明記と連動する。また、当該緊急時に国民の生命や財産等の保護が政令でなしうるとの規定は、むしろ立法権を無視して人権制限を正当化する恐れがある。この問題は、災害対策基本法等の適用・整備で対処可能である。
 さらに、緊急時に国会議員選挙があるときに任期延長特例を可能とする規定は、参院の緊急集会で対応可能だから不要だ。議員任期延長は内閣の緊急権発動の継続(独裁)を正当化する恐れもある。
 ③参院選の合区解消規定の導入 現行憲法47条の中に、各都道府県から議員1人以上を選出する参院選挙区制を導入する改憲案には、次のような問題がある。 第一に、参院選挙区を都道府県代表と位置づけることになり、議員を全国民代表と規定している憲法43条 に抵触する。第二に、参院選挙区を事実上小選挙区制にすることになり、自民党を利することになる。第三に、合区解消だけでは、都道府県間の有権者と議員の投票価値の格差是正につながらない。この問題は改憲ではなく、参院選挙区を比例代表に近い制度にして、議員数を増やす法律改正で対処すべきである。
 ④教育の充実規定の追加 改憲案は、現行憲法26条に3項として「教育は国の未来を切り拓く」とか、「教育環境の整備に努める」といった文言を追加しているが、これは改憲草案にある規定である。前者は愛国心教育等の国家主導(介入)教育を行うことを可能とするものであり、後者は教育環境整備を政府の努力義務にとどめることを意図している。 自民党はもともと高校の授業料無償化に対し、選挙向けばらまき、恒久財源がないとして反対し、大学等の高等教育の漸進的無償化を締約国に義務づけている国際人権A(社会権)規約の実施も無視してきた。教育の充実や無償化は改憲しなくとも、法律で実施可能である。