解雇の金銭解決制度
第二次安倍政権の労働政策での解雇規制緩和の具体的な方針としては、@ジョブ型正社員(限定正社員ともいわれる)に関する雇用ルール整備、A解雇の金銭解決制度が示されている。
この@ジョブ型正社員、限定正社員、より一般的には「多様な正社員」とは、職務、勤務地、労働時間等が限定された労働契約を締結した正社員をさす。
規制改革会議は、このジョブ型正社員導入のメリットとして、有期雇用から無期雇用への転換を容易にして非正規社員の雇用の安定をはかる、働き方などを限定することで家族中心のワークライフバランスを保つ、女性の積極的な活用を図るなどを挙げる。
しかし、ジョブ型正社員と無限定正社員とで人事上の処遇などのルールを明確に変えるとする。例えば、事業所閉鎖や事業・業務縮小などでそのジョブが消失した場合を、就業規則の解雇事由に加えることもセットで主張していることを見過ごすことはできない。その他にも問題点は多い。
そもそも、従来の正社員が、職務、勤務地、労働時間が限定されていない「無限定正社員」だという誤った前提に立っている。また、従来も、多くの企業では事業所閉鎖や事業縮小を就業規則上の解雇事由に掲げているにも関わらず、判例上は労働契約法16条や整理解雇の4要件などにより解雇は厳しく制限されていた。
例えば、配転先の検討、希望退職の募集など解雇回避努力義務を尽くすことが、使用者には厳しく求められてきた。
今年6月に示された厚労省の有識者懇談会の報告書骨子案でも、「限定正社員でも解雇は正社員同様の厳しい条件がある」と示されたが、これに対しては「これでは限定正社員の普及効果に疑問だ」と本音の見える意見もあり、まさに、このジョブ型正社員をいわば突破口として、解雇制限の緩和が目論まれている。
次に、A解雇の金銭解決制度は、裁判等で解雇が無効となっても、事後的に金銭を支払うことで労働契約の解消ができるとする制度である。
しかし、解雇にはいろいろな理由がありうる。裁判で審理を尽くし不当・違法な解雇だと認定されたからこそ、解雇無効だと判断されるのである。それにも関わらず、金銭を支払うことで雇用契約の解消が可能になるとはどういうことか。
これは、使用者の不当な行為が金銭の支払いにより正当な行為になるというに等しくないか。現在でも、労働者の方から望んで金銭解決を選択することは認められているし、裁判で最後まで解雇無効を争うというのは、まさに、「お金の問題ではない」と本人が拘るからこその選択である。
さらに、この金額自体、相当な高額になるなどという保証は全くない。この解雇の金銭解決制度の導入は、解雇規制が全く骨抜きになってしまうおそれが強い。
問題多い『雇用指針』
特区では、まず、特定の地域のみ全国とは異なる取扱い・制限を行う点で、憲法14条の平等原則違反、27条の勤労権違反の問題が生じうる。
昨年の解雇特区に対する国民の猛反対や厚労省の抵抗は記憶に新しい。現在、雇用に関する特区で予定されるのは、『雇用指針』に基づく「雇用労働相談センター」での情報提供、相談、助言などや、外国人の在留資格の見直しなどである。
今年3月、国家戦略特区として福岡市をはじめ6地域が指定された。労働関係に関しては、福岡市(創業5年以内のベンチャー企業の雇用条件の整備、多様な外国人受け入れのための在留資格の見直し)が一歩進んでいる面はあるが、東京圏(東京都・神奈川県の一部、千葉県成田市…グローバル企業等の雇用条件整備、多様な外国人受入れのための在留資格見直し)、関西圏(大阪府・兵庫県・京都府の一部…ベンチャー企業、グローバル企業の雇用条件の整備)などでも準備は進められている。
本年4月、特区での採用や解雇に関する情報提供等のガイドラインとなる『雇用指針』が示された。
この『雇用指針』こそ、問題が非常に多い。企業を内部市場型と外部市場型の2類型に分けたうえで、外部市場型であれば解雇が容易であるかのような記載。解雇の金銭解決制度を前提とするかのような表現が散見し、引用される裁判例が古い。競業避止義務違反のところで原則例外が逆、等々。誤りまたは誤解を招きやすい記載が多い。
この『雇用指針』を軽信した事業主に誤解を与え、紛争予防どころかかえって紛争を多発させるのではなかろうか。
今後も逐一監視し、これ以上の雇用ルールの改悪を許さないよう声を上げ続けていかねばならない。
|