開発途上国等の経済発展・産業振興の担い手となる人材の育成のためとして、JITCO公益財団法人国際研修協力機構を通じて諸外国の青壮年労働者を3年を限度として、産業上の技能等を修得してもらう「外国人技能実習制度」があるが、実態は日本人が働くのを嫌がる3K職場(農業や縫製業)の低賃金労働力確保の手段となっている。05年からは実習生にも労働基準法が全面的に適用されることになっているが、現在17万人程度の技能実習生が日本で働いているといわれている。その一端を報告する。
帰国直前に発覚
2015年3月3日、中国人女性実習生(姜さん、柴さん、干さん)から賃金不払い問題の相談を受けた。彼女たちは12年3月15日に実習生として来日、子供服専門の縫製業N商事(徳島県神山町)に就労したが、他企業の同期の実習生との交流を通じて自分たちの残業代が「あまりにも安いのではないか」と疑問を感じるようになり、実習生の先輩や送り出し団体(中国側)の仲介人(ブローカー)に相談、「それはひどい」ということで、社長に話合いを申し入れた。
2月26日、彼女たちと仲介人らが会社を訪問すると、社長は「不法侵入だ」と警察を呼び、門前払い。労働基準監督署、入国管理局などにも相談に行ったが、調査はしてくれるものの問題解決になるかどうかは不明ということで展望は遠のくばかりだ。
一方、彼女たちには在留期限切れ(3月13日)が迫り、「なんとかならないか」ということで探し当てたのが私たち港湾ユニオンセンター(全港湾四国地方本部)だった。
まさにタコ部屋
彼女たちの労働実態は「いまどきこんな職場があるのか」と驚愕するものだ。
その内容は、@毎日7時50分から22時前後まで働き、休憩は昼45分、午後15分、夕方30分のみ、週6日労働、週休日曜(不良品の修理などを無給で半日ほど行う義務あり)、A残業1カ月90時間、1年1100時間、3年3200時間、B基本給1年目6万円、2年目から7万円、C残業単価1年目平均350円、2年目450円、3年目500円、D厚生年金未加入、E50u(30畳)に20人同居とか10u(6畳)に6人同居。部屋代1人3万円徴収、E年中シャワーのみ風呂なし、Fインターネットや電話は使用禁止。手紙ダメ、Gいたるところに監視カメラを設置、H労働契約書、労働条件通知書の偽造といったものであった。
それは労働基準法違反、最低賃金法違反、労働安全衛生法違反などはもとより、外部との連絡遮断、私生活への介入など実習生の健康と人権を無視したまさに現代のタコ部屋そのものである。こうした実態を検証し、私たちは実習生に本来支払われるべき賃金を計算し、それから会社が実習生に支払った賃金を差し引いて、不払い賃金額1人300万円余を確定した。その決め手になったのは実習生が残業時間数を手帳や大学ノートに毎日メモしていたことや携帯での録音、写真などであった。もしそれがなければこの問題の解決は非常に困難だっただろう。
日記、メモが決め手に
そこで私たちは不払い賃金の支払いを求めて団体交渉を申し入れ、一方で徳島労働基準監督署や高松入国管理局、徳島県労働委員会には団交斡旋申し立てを行うなど会社に対する強力な指導を要請した。会社は簡易裁判所に調停を申し立て、結果的に話し合いが成立した。
当初、社長は「日本人と同じ条件で雇うなら実習生を雇う意味がない」と不払い賃金の支払いを拒否していた。しかし、私たちが作った残業代の資料を突き付けられ、監督署の指導もあり、不払い賃金の支払いに応じてきた。その結果、実習生1人約90万円弱の不払い賃金の支払いを勝ち取ることできた。
最賃上げと不払い解消を
とは言え、今回も不払い賃金額を大幅に減額して妥協せざるを得なかった。
その理由は、労働基準法が「労務債権の遡及期間を2年間」としていることと、「社会保険や寮費等のごまかしは別途裁判」に訴えるしかなく、しかし、そのためには多額の費用がかかり、アキラメざるを得なかったからである。彼女たちは3年間働いたが1年分の不払い賃金は支払対象外になる。
技能実習生制度は日本の国際貢献という美名のもとに行われているが、こんなことでは国際貢献どころか国際的信用を失墜させるだけだろう。理不尽な話である。実習生に「また日本で働きたいか」と尋ねたところ3人とも「もうコリゴリだ。働きたくない」とうつむいた。
安倍首相は東日本の復興と東京オリンピックの準備のために運輸、建設部門の労働力不足を、海外からの技能実習生を増やしたり、実習期間を延長(3年から5年に)して補おうとしているが、この種の問題を解決せず、悪徳業者を助けるような仕組みをそのままにしておくというなら低賃金政策を拡充するために外国人を利用しているとの批判は免れず、決して許すことはできない。
国際貢献の意義と名誉のためにも最低賃金を大幅に引き上げ、実習生の待遇改善を図るとともに不払い賃金は、全額支払いの原則を確立すべきである。
また、実習生が不幸にして不当な扱いを受けて裁判を起こそうとしてもその費用は彼らにとって莫大なものとなり、その結果泣き寝入り、悪徳業者のやり得、拡大となっている。入国管理局や労働基準監督署の監督行政の中に実習生のそうした問題を代行する相談窓口を設置し、悪徳業者の根絶を図る取り組みが求められている。
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