労働基準法改正案の目玉とも言われている残業代ゼロ法案(高度プロフェッショナル制度の導入)について安倍内閣は7月12日、連合の要請で修正に合意し、秋の臨時国会で決着をつける運びとマスコミが一斉に報道した。これに対し、連合傘下の全国ユニオン(鈴木剛会長)は連合が政府に出す「要請書」の反対声明で「裏切り行為」と強く批判し、全労連、全労協も連合の変節に強く反対している(別項)。宮川敏一新社会党労働運動委員会委員長も「これまでの政労資の密約の筋を通そうとするのは明らか、安倍政権の支持率が低落している今こそ、連合は労働者の立場から前向きな政治を目指せ」と語っている。
安倍内閣は2015年4月3日、「労働基準法等の一部を改正する法律案」の閣議決定をした。連合は、その日のうちに「事務局長談話」を発表した。当時の事務局長は神津里季生氏(現会長)だ。
「法律案は、ホワイトカラーエグゼンブションであり、裁量労働制の対象業務を拡大、労働時間規制の緩和策であり、長時間労働を助長する」と批判し、「過労死ゼロ実現に向けた社会的運動を院内外で強化、展開させる」と宣言した。
それから2年余りの変節だった。「安倍首相から少しでも有利な条件を取るのは今しかない」(連合逢見直人事務局長談)などと残業代ゼロ法案を容認した。
報道では、年間104日の休日やインターバル制度の導入などが要請されたといわれるが、104日の休日とは週休二日に年間52週をかけたに過ぎず、国民の祝日すら入っていない。労働時間の上限設定も、過労死認定ラインの月100時間未満、年間720時間を容認する政労使合意がなど不明朗さがつきまとっている。その中での「健康確保措置」といっても、その実現も担保されず不明だ。
3月28日に発表された「働き方実行計画」では、既に政労資で合意ができていた。そこには、「残業上限案」に関連して労基法改正案の「早期成立を目指す」ことが明記されており、「連合はケリをつける必要性を迫られていた」と厚労省幹部が明かしている。
「残業代ゼロ」の起点となる年収については、1075万円(一般労働者の平均年収350万円の3倍を想定)以上について、審議会の経営側委員より「3倍に固執する必要はない。1・5倍にすべきだ」などと、早くも規制外しが示唆されている。
神津連合会長は10月の連合大会で会長を退くことを決めている。退任する僅か3カ月前の背信行為は非難されないわけはない。官邸は連合に対して、「民進党が共産党に接近している」などと耳打ちをして、「暗に止めさせろ」と迫っていた。安倍政権の支持率が低落しているときこそ、連合は労働者の立場から前向きな政治をめざさないといけない。
「非民主的な運営」 全国ユニオン
……時間外労働時間の上限規制と、すでに提出されている高度プロフェッショナル制度に代表される労働時間規制の除外を創設する労働基準法改正案とを取引するような今回の要請書(案)は、労働政策審議会さえ有名無実化しかねず、加えて、連合内部においては修正内容以前に組織的意思決定の経緯及び手続きが非民主的で極めて問題です。また、政府に依存した要請は、連合の存在感を失わせかねません。
……私たち労働組合にかかわる者は、安心して働くことができる社会と職場を後世に伝えていくことが義務であると考えます。今回の政府に対する要請書の提出は、こうした義務を軽視・放棄するものに他なりません。全国ユニオンは、連合の構成組織の一員としても、政府への要請書の提出に強く反対します。
「要求の一致で共闘推進」全労連
……高度プロフェッショナル制度、裁量労働制、いずれも使用者に課されるべき雇用責任、労働時間管理責任を軽減し、「残業代ゼロで働かせ放題・過労死しても自己責任」をもたらすものであり、過労死の根絶、長時間労働の是正を願う多くの労働者とその家族の思いに真っ向から反する政策である。「働き過ぎによって命を失うという悲劇を二度と起こさない決意」とした安倍首相の約束に疑念が生じるような労働時間制度の改悪は、断じて認めるわけにはいかない。
全労連は高度プロフェッショナル制度創設や裁量労働制の拡大の撤回を強く求めるとともに、月100時間もの残業を容認する「名ばかり上限規制」も撤回し、原則をふまえた労働時間規制の強化を求め、要求の一致点での共闘をすべての労働者に呼びかける。
「健康破壊の撲滅迫る」 全労協
……時間外労働の上限規制で過労死と認定される時間を容認する「政労使合意」がなされるなど、労働者の要請に逆行する合意がなされてきたのである。いままた、労働者の窮状に背を向けるばかりか、新たに労働者代表として高度プロフェッショナル制度を容認する合意をすることはとうてい看過できない。
労働者派遣の全面解禁が非正規労働者の無権利低賃金を拡大し、貧困格差社会を作ってきたように、再び長時間労働による健康被害・過労死を促進することは明らか……私たち労働組合がなさねばならないのは、労働弁護団や労働諸団体と共に、過労死等の健康被害撲減に向け政府財界に迫ることであろう。決して連合が代行すべきものではなく、いわんや使用者の労働時間管理義務を免じ、定額働かせ放題を容認することではない。
|