「これほどの大事故を起こしながら、企業の責任者が誰も罰されないなんて、おかしい」、昨年9月19日、東京・霞が関の東京地裁前でうめきにも似た悲痛な声が上がった。2011年3月に起きた東京電力福島第一原発事故を巡り、検察審査会の起訴議決によって業務上過失致死罪で強制起訴された勝俣恒久元会長ら東電の元幹部3人に、東京地裁が全員無罪の判決を言い渡したことに対する怒りだ。
判決は、「事故の結果は誠に重大で取り返しがつかないが、事故前の法規制は絶対的な安全確保を前提としておらず、3人に刑事責任を問うことはできない」とまで言い切っているのである。
判決後の報告集会では、JR福知山線(宝塚線)脱線事故(2005年4月)で1人娘の中村道子さん(当時40歳)を亡くした藤崎光子さん(79歳)=大阪市城東区=が、「欧米では法人の犯した罪を罰する法律があるのに日本にはない。福知山線事故では運転手が亡くなったが、生きていたら全て運転士の責任にされたであろう、というのが日本の法律だ」と日本の法体系の不備を衝いた。
JR福知山線の事故では、運転士と乗客106人が死亡、562人が重軽傷を負った。JR西日本の山崎正夫氏ら歴代の社長4人が刑法の業務上過失致死傷罪に問われたが、いずれも無罪が確定している。
そして中村さんは、大事故を起こした企業の責任者を罰する法律、あるいは企業に高額の罰金を科す制度ができれば、組織の幹部の安全意識が高まって事故が減ることは欧米の例でも証明されていることを紹介して、「組織罰(法人罰)」創設の必要性を訴えた。
JR福知山線事故の後、福島原発事故、12年12月には山梨県の中央自動車道笹子トンネルでコンクリートの天井板が130bにわたって崩落する事故が起き、走行中の車数台が巻き込まれて9人が亡くなった。
福知山線事故の遺族を中心に福島原発事故の被害者や笹子トンネル事故の遺族が加わって14年3月、「組織罰の創設を考える勉強会」が発足した。
「勉強会」では、大学の研究者や弁護士らから話を聞き、イギリスで07年に創設された「法人故殺法」では、安全管理の不備で死亡事故が起きた場合は企業の刑事責任を問えるようになったことなど海外の事例などを学んでいった。「勉強会」は14年4月、「組織罰を実現する会」に衣替え、署名活動も始めた。
企業が起した事故の責任を問う「組織罰」について考えます。 |