母国語で書いた退職理由が決め手
ブラジル人母娘3人は、ここ3年ほど静岡県浜松市にあるT株式会社で嘱託社員(1年有期)として製造ラインで働いてきた。
19年秋、翌日の休みを届けて休んだところ、「無断欠勤の理由が分からない。今週は休んでくれ」とのメールが上司から届いた。訳が分からないままその週を休んだ。週が明けて改めて出社すると仕事に就く間もなく事務所に呼ばれて「無断欠勤」の理由を問いただされた。
その話の時に、母娘は、家庭の事情により12月まで勤務時間短縮を願い出た。すると会社は、無断欠勤の追及ではなく、「契約が満たせないなら、自己都合で退職するということだ」と、母娘らが退職の意思はないことを強く主張しても取りつく島もなく、その場で当日付けの退職願を書かせた。
「私は退職したいとは言っていない。無理矢理辞めさせられる」と母親はポルトガル語で退職理由を書いた。娘たちも母にならい、会社への怒りを退職願いに書き込んだ。
母娘は、翌日に浜松労働基準監督署へ相談したが、「できることは何もない」と労基署から突き放された。
このまま泣き寝入りはしたくないと、母娘はツテをたより遠州労働者連帯ユニオンを訪ねた。
「復職する気はないが、会社には、それなりの補償をしてもらいたい」との彼女らの相談を受け、ユニオンは民法536条2項に拠り雇用契約期間満了までの賃金補償を求め、会社と2回の団体交渉を行った。しかし、会社には解決能力がなくこう着し、次の手段を考えていた時、親会社2社から話を持ち掛けられ、2回の事前折衝を行った。
そして、母娘が書いた退職願の記述内容や白紙の離職票に署名押印をさせようとした証拠写真、会社との会話記録などが決め手となり、彼女らの希望にほぼ沿う形での解決を勝ち取ることができた。
T社で働く100人ほどの従業員のうち、半数程度は外国人だ。最近は多数のベトナム人技能実習生を使っている。会社は、団体交渉直前に新規に受け入れる実習生のための住居整備に動き回っているところだった。今回の事件は、外国人労働者を人件費のより安い実習生へシフトしようとして起きたと推測している。
(遠州労働者連帯ユニオン)
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