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2014.9.02
進む集団的自衛権の実体化(下)
軍事優先の刷り込み教育を狙う
元都立高校教員 永井栄俊




 2013年度の田無工業高校生の自衛隊施設での防災訓練に続き、今年は、大島高校が神奈川県武山駐屯地での隊内訓練が11月に予定されている。
 2012年度より都教委は宿泊を伴う防災訓練を実施しており、その一環なのである。この防災訓練は学校教育の中に軍事的要素を持ち込むものとしてすでに報告してきた。


 準徴兵制のような防災訓練


 この防災訓練の構想は2012年4月の都教委円卓会議の「教育構想」の中で示されている。参加メンバーは、石原慎太郎(当時知事)、猪瀬直樹(当時副知事)、等である。その中で石原は、「高3を卒業した年代で、韓国じゃないけれども、2年間はやっぱり兵役、消防、最低限、海外協力隊みたいなところに組織的な奉仕運動の体験をさせたらいいと思うんですね」と言っている。
 これに猪瀬が応えて、「今年考えたのは、体育館に被災地の状況と同じように、夏休みに体育館にとにかく何泊かする。そして、近所を見廻りする。自分で避難民の食事をするという、そういうことを今年の夏」にするということで始められた。
 つまり、韓国の兵役をモデルにして防災訓練が始められたことが分かる。しかも「1週間程度やらせる」ことも提案されている。
 ところがこの「1週間程度の宿泊訓練」は、2012年に出された都教委の『改革推進計画・第一次実施計画』のなかでも明記されており、単に思いつきだけではなく教育行政の基本計画であることがわかる。
 つまり、準徴兵制のような制度を構想しているのである。さらに注視すべきことは円卓会議で「教育は刷り込みだ」としている点だ。
 防災訓練はまさに刷り込みの「教育」を意図しているのである。戦前の教育体系が刷り込みを基本にしていたことを考慮するならば、都教委の防災訓練の手法はまさに戦前型の軍事優先の国家体制の教育手法なのである。


 「防災活動支援隊」の組織化


 都教委の防災訓練の要項の中で特徴的なのが生徒の中で結成される「防災活動支援隊」(以下、「支援隊」)の存在だ。2013年度は、推進校でのみ義務づけられたが、2014年度は全ての都立高校で結成が義務づけられている。この組織は、2013年度の『防災教育推進校実施に関するガイドライン』(2013年2月28日、都教委)でその設立が示されている。生徒会やクラス代表などで結成することが例示されている。そして、自校の災害時の生徒リーダーになることが要請されている。
 しかし、学校におけるこの防災の態勢は、日常的に準備されることが要点にされている。多摩地区のC高校の場合、年間10回にわたり防災関連活動を行い表彰されている。言うならば日常的な生徒組織による指揮命令の確立が、この「支援隊」に意図されているのである。生徒の自治的組織としては生徒会があるが、どこの学校でも形骸化してきている。
 生徒の自治的活動が許されないような管理体制が学校に確立しているからである。この生徒会に代わって生徒のリーダーとして作られるのが、この「支援隊」なのである。規律と統制の生徒組織が意図されており、生徒会組織とは本来対極に位置する組織である。しかし実際には、生徒会がそのまま「支援隊」に組織改編されることになるであろう。


 またこの「支援隊」は、地域との防災活動のリーダーになることが期待されている。都議会文教委員会で金子一彦指導部長は、「生徒は……災害発生時に地域の避難、救護、救援の中心的な役割を担う」(2013年11月27日)と述べている。
 しかし、生徒が地域の防災のリーダーになることは法令的な根拠がない。「学校教育法」をはじめ教育関連法には示されていないのである。また、災害基本法では、学校の役割は示されているが、生徒の地域での防災の関わりについては示されていない。つまり、この都教委の防災訓練の構想は、明らかに法令を逸脱しており、また危険な要素を孕んでいる。
 

 また、前述の文教委員会で、金子指導部長は「(災害派遣の)活動は、防衛の際にも求められるものであり、自衛隊の所掌事務である防衛に含まれるというものでございます」と述べており、防災活動が防衛活動として意識されていることが分かる。生徒の防災訓練は防衛活動の一環なのである。
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