東京地裁判決は「学校の支援が足りなかった」と指摘
今年3月29日、東京地裁吉田徹裁判長は、06年にうつ病を発症し自殺した女性教諭の遺族が、公務災害を認めるよう地方公務員災害補償基金(東京都)に対し提起した訴訟で、「学校の支援が十分でなく、自殺の原因は公務で発症したうつ病である」と指摘し、原告勝利の判決を言い渡した。つまり、公務災害を認め補償金を支払うよう命じたのである。
女性教諭の勤務や研修の状況
女性教諭は、06年4月、西東京市の小学校に採用され、2年生の担任になった。新人教諭には、「教育公務員特例法」により1年間の研修期間が義務づけられ、終了時に正式採用か否かが判定される。
担任の仕事をしながら、週10時間の初任者研修とレポート提出が求められるのだから、想像を絶する苛酷さである。
校長は、新人の指導教諭を決め、都に届けねばならない。その指導教諭は何をしていたのだろうか?
●教諭の周りで起きた事例
@「万引きをした」との情報を得た教諭は保護者に電話で連絡。「事実を示せ」と激しく抗議され、最後に校長が謝罪。A授業での班分けについて、保護者が夜間や休日に教諭の携帯電話に繰り返し要望。
●校長の指導はどうだったか
保護者とのトラブルについて校長は全職員の前で女性教諭に説明を求め、教諭は謝罪する。クラスのトラブルを校長に報告すると叱責されるに違いないと教諭は悩む。
●新任教諭向けの研修では
「新人はいつでもクビにできる」「病休・欠勤は給料泥棒」と聞かされる。
このような無権利状態の中で新任教諭は思い悩み、ついに若い命を散らすに至った。
《東京都の実態》
東京都では昨年度の新任教諭2982名のうち、78名(2・6パーセント)が正式採用にならなかった。実質クビである。内訳は、年度途中の自主退職63名、「クビより自主退職の方が傷が付かない」と校長に勧められる人が多いようだ。この63名のうちに病気29名が含まれるのが気になる。正式採用不可となってからの自主退職12名、懲戒免職3名。
もともとたった1年で適・不適を判断するのが無理なのである。教師の仕事はそんなに簡単なものではない。失敗しながら会得することも多い。前途ある若者に苛酷な研修を強いるこの制度は運用に慎重さが求められる。(東京・田畑和子)
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