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2016.11.01
保育をめぐる動向「上」
潜在待機児童は85万人

  

 保育士不足と潜在保育士60万人    

                  上野 英輔(米沢市職員労働組合)


 根っこに低賃金構造 


 安倍政権は待機児童の解消について「待機児童解消加速化プラン」を掲げました。これは2017年までに40万人分の保育の受け皿を確保するというも のです。つまり、政府は待機児童の数を40万人と想定しているということですが、潜在的需要も含めると果たしてこの数字はどれくらい正確なのか疑問が残るところです。
 この待機児童問題は首都圏を含む一定の都市部の地域に需要が高まっており、供給とのバランスが取れていないという状況です。いずれにしても、そこに保育所の運営に手を出す民間企業が都市部を中心に多く参入してきているのが現状にあります。
 一方で、保育現場では、保育施設が用意されたとしても、肝心の保育士の人材育成や人材の教育が追いついていないことや、保育士不足といった状況があります。
 利益を出すことを目的とした民間企業の新規参入や事業拡大が加速する中で、子どもを保育園に入れないと仕事に復帰できない、さらには職を失いかねないという保護者の切迫した状況があるにもかかわらず、そこには安心して子どもを預けられないような保育所の実態があるということです。とくに、この問題の根っこには、保育士の待遇(低賃金)の問題があり、それは財源問題に直結しているということがあります。そこに今の保育現場の実情が反映されてきているということです。
 

 基準下げ定員増やす


 待機児童の数は、厚生労働省の発表では4万3184人(14年10月)ですが、今後働きたいと思っている人、もしくは、待機児童の多いといわれている地域で最初から保育園に入れないからと働くことをあきらめていた人や、認可外の施設に入って空き待ちをしているような潜在的な待機児童は85万人にも及ぶといわれています。
 そのためここ数年、潜在的待機児童を待機児童として数に含めることにより待機児童が増える原因となった自治体もあり、それだけカウントされないで表面に出てこないところが多くあるということになります。
 「保育園落ちた日本死ね!」の匿名ブログで一気に議論が燃え上がった待機児童問題ですが、16年2月15日に投稿され各ニュースなどで報道がなされるなど、ネットでは早くから注目が集まり、この問題は大きく取り上げられるようになりました。
 このような中で、世論に押され、政府がとった対応策は@現在19人以下とされている小規模保育所の定員を22人まで増やすこと、A自治体が独自に「1歳児5人につき保育士1人」としている基準を国の基準に合わせて「6人に1人」に緩和するというもので、国が自治体に規制緩和を要請する内容でした。
 これは受け皿の拡大を急ぐあまり、既存の施設に乳幼児を詰め込むような小手先の対応であり、子どもたちや現場の保育士の負担が大きくなり保育の質の低下を招くのではないかと懸念されるものでした。
 このように、この潜在的待機児童が表面化することによって、たとえ保育園が増加したとしても簡単には問題が解消しない状況があるといえます。

 資格を生かせない


 国は、潜在的待機児童も含めた待機児童問題を解決するために、地域ごとの状況(需要と供給)に応じて保育所を増やすことを試みています。そのために、民間企業が保育園を立てて運営するための規制緩和や保育園建設への補助金などの資金投入がされています。
 しかし、ここで大きな問題が出てきます。どれだけ規制緩和をしても補助金を出しても、先にも触れたように、高まる保育の需要に保育士の人材確保が追いつかないため、現場では空前の保育士不足に陥っている状況です。
 しかしながら、保育士試験では毎年約4000?5000人が保育士になっており、これまで年1回だったものが2回行われるなど資格取得が促進されています。さらに厚労省では、保育士の資格を持ちながら実際に保育士として働いていない「潜在保育士」は60万人以上としています。つまり、保育士になりたくて保育士資格を取ったのに、実際に保育士として働く人が3〜4割しかいないということになり、多くの有資格者がその資格を活かせずにいるということです。
 東京都による「東京都保育士実態調査報告書」(14年3月)によれば、現在、保育士として働いている人のうち、離職を考えている人の割合は全体で16%と、6人に1人は保育職場からの離職を考えているという結果が出ています。また、公設公営より民設民営の方が就業継続の意向が低くなっており、退職意向の理由は、1位「賃金安い」、2位「仕事量が多い」となっているのが現状です。
 子どもの命を預かり、親の雇用を守る仕事でもある保育士の労働実態や処遇はあまりにも悪く、保育士が辞めていくのは低賃金、長時間労働に加え、良い保育ができなくなることも大きく影響しています。
 真剣に親子と向き合う保育士ほどバーンアウトして辞めていき、二度と保育の現場には戻らない可能性があるのが現状です。裏を返せば、多くの保育士が希望する条件が整えさえすれば、保育士を続けていくことができるということです。
 国と自治体が保育士の働き方や処遇について早急に改善していかなければ、保育士不足はますます加速していくかもしれません。

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