規制緩和で質の低下も
上野 英輔(米沢市職員労働組合)
予算配分の構造と問題
待機児童の問題と保育士不足の問題と保育の現場は大変厳しい状況にあります。
その根本的な原因は、この国が保育についてきちんと予算を投じていないことにあります。保育所を管轄する厚労省の15年度予算案(一般会計)は29兆9146億円となっており、前年度と比較して8693億円増えています。しかし、保育予算が含まれる「福祉等」の予算は4兆円で厚労省の予算全体の13・5%に過ぎません。さらに、厚労省や内閣府を含めた国全体の予算としては、「子ども・子育て支援新制度の実施と待機児童解消に向けた取り組み」で15年度は合計2兆2294億円となり、保育関連の予算は国家予算の全体(96兆3420億円)から見ると、わずか2・3%に過ぎません。
ただ、この予算には児童手当などの予算も入っているので、実質的な保育の予算としては、保育運営費(新制度では公定価格と呼ばれる)に関する国と地方を合わせた4844億円で、国だけでいえば2195億円の予算しか計上されていないことになります。これは、国家予算に対して占める保育の割合が国と地方で0・5%、国だけでは0・2%で、予算全体の1%にも満たないということになります。
保育の質の低下、保育士が疲弊し辞めていっている構造的な問題は、このように保育に対しての国の予算配分を見れば明らかです。
利益優先の私企業の参入
「保育」とは、子ども(乳幼児)を適切な環境のもと健全・安全で安定感をもって活動できるように養護するとともに、その心身を健全に発達するように教育するとあります。
こうしたなかにおいて人手不足が何をもたらしているのか、毎年保育所での事故が後を絶たちません。厚労省の調べでは2014年の死亡事故は認可で5件、認可外で12件となっており、自治体から認可されている保育所でも決して安全を守ることができなくなってきているのが現状です。このことは、保育士の不足によって子どもたちへのきめ細やかな対応ができなかった結果、起こってしまった最悪の状況だといえます。
また、15年度は保育業界にとっては激変の年となっています。国が「子ども・子育て支援制度」をスタートさせ、保育の認定や保育料、保育所運営のスタイルまで変わりました。既存の幼稚園や保育園に加え、国は認定こども園を今までよりも推し進めようと、教育基本法に基づく「学校」と位置づけ、カリキュラムに従って4時間勉強することとしました。ここでもイメージ先行の「教育」を意識しながら普及が図られています。
このことで、保育現場も、親も大変混乱を生じました。しかし、こうした煩雑な保育形態において、厳しい現状の中でも良い保育の実現に向けて取り組んでいる現場もありますが、現状は待機児童が多いからと急いでハードの保育所だけを作り、ソフトの部分の人材育成が追いついていないという状況です。
米沢市の状況
山形県米沢市では、2015年4月から導入された「子ども・子育て支援制度」により保育園の園長クラスや市のこども課の担当職員が普通保育と短時間保育の把握など、保育現場ではもちろんのこと事務的にも煩雑さが増しているという状況です。
いずれにしても、前回の「保育をめぐる動向・上」で記載した状況と米沢市の状況で共通しているところは、子どもの人数に対して充分な保育士の配置がなされていなかったり、もしくは不充分だということです。つまりは、現場では保育士が足りていないということです。そこにきて受け入れ人数も定員数に比してオーバーしているという状況です。
さらに公立保育園としての役割を考えれば、障がい児や支援の必要な保護者、またはそういった家庭へのネットワーク支援の機能を有していることで、よリ一層の人員の配置と安心して預けられるような環境整備が必要となっています。
小さな課題から社会全体に及ぶ課題までをしっかりと捉え、これから子どもを出産して、育てていく世代の人たちが安心して子どもをあずけることができるように、さらに制度の検証が必要になってきます。
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