トップ週刊新社会教育2018.08.28
2018.08.28
中学“道徳”教科書が不安−千葉・安房広域採択区−
民主主義が敵の道徳教育

   7月20日、15時から南房総市教育委員会の定例会を傍聴した。新たに道徳が教科になり、来春の中学生が使う道徳教科書が8月末までに決まるからだ。

 この間、採択までの議論内容の公開や内面を自己評価させるような教科書は採択しないことなど5項目を「安房地区道徳教育を考える会」で安房広域採択区の館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町の市教委に申し入れてきた。

 そんなこともあり、この日、会の代表らと私、6名で傍聴しに行ったという次第である。

 昨年夏に今春から使われている小学校道徳教科書が決められたが、こともあろうに安倍首相の得意げな写真がでかでかと載っている「教育出版」の本が安房採択区で採用された。

 教科書、それも道徳教科書に現職首相の写真が載るというのは尋常ではない。塚本幼稚園で「安倍首相、頑張ってください!」と幼稚園児に唱和させていたのにはショック受けたが、これはそれ以上に悪質である。

 この教科書、全国の使用率は8・6%である。そんな本をわざわざ採用したのは、よほどの事情があるのだろう。来春、どんな本が中学生に渡されるのか、ますます心配になる。

内容不明の密室審議

 さて、市教委の定例会だが、議題56号「平成31年度使用教科書の採択について」は「教科図書の選定にあたっては静謐な中で行いたいので非公開」とされたので、残念ながら議論内容は不明である。

 決定前の議論などを公開するといろいろな圧力や売込みの心配があるから非公開、ということも他で聞いたが、「来年度から始まる道徳の教科化に伴い、新たに設立した教科書会社」と自らが言う「日本教科書」は、八木秀次氏(顧問)と武田義輝氏(社長)連名で各市長あて「ご案内」を、2018年1月24日の「教育再生首長会議」で配布している。

 とりわけ八木氏は安倍首相に近く、例の皇国史観回帰の「13歳からの道徳教科書」の編集委員だった。武田氏は、「マンガ嫌韓流」、「嫌韓流実践ハンドブック 反日妄言撃退マニュアル」などの、いわゆる「ヘイト本」を出版している会社の社長でもある。

 そんな人たちが作った教科書なのだが、伊勢神宮が「こころのふるさと」として出てきたり、例えば愛国心等の内面の評価を4段階に格付けさせるなど、私なら絶対に使わせたくない本である。

 こうなってくると平和憲法に象徴される戦後民主主義を目の敵にし、教育勅語体制に引き戻そうとする何やらの影が感じられて空恐ろしくなってくるが、要するに保護者や地域住民にはもっともらしい理屈をつけて隠し通し、一部の人たちの思惑通りに事を進めてゆく、ということだろう。そのための法改正や各種機関の人選方法の改変等、安倍政権は着々とやってきたと言っていい。

 南房総市では、かつてまだ道徳が教科ではない時に、教育長が、前述のトンデモ本であり、安倍氏が激賞した「13 歳からの道徳教科書」を全中学生に配布したことがある。おそらく全国で唯一だろう。そんな功績もあってか教育再生実行会議の「有識者」の一人に抜擢されたとは世情の噂だが、ここには八木秀次氏もいることから、今回の中学生用道徳教科書の採択の行方がますます心配になるゆえんである。

 採用本が決定された後の9月1日以降、広域採択区の事務局を担った市教委で内容を公開するはずなので、要チェックだが、無償措置法と施行規則では、「採択を行ったときは、遅滞なく、1、当該教科書の種類、2、採択した理由、3、研究のために作成した資料、4、採択地区協議会の会議の議事録の公表の努力義務」が定められている。

 なお、先の申し入れ書だが、傍聴していた時間内では話も出なかった。市民の声は今の教育委員会には届かないのだろうか……。