トップ週刊新社会教育2018.10.16
2018.10.16
若者の貧困から政治を考える(上)
『金融』に墜ちた学生支援機構
中京大学教授 大内裕和

 新社会党中央執行委員会は、中京大学教授の大内裕和さんを招いて「若者の貧困」から考えると題した講演会を9月1日に開き、現下の政治課題について討論した。講演要旨を紹介する。

奨学金運動の始まり
 今から8年前、私は愛媛の松山大学に勤務していました。

 教職課程の科目を教えていましたので、奨学金の講義を行いました。受講生は100名位ですが、全くふだんと違いました。寝ている学生がゼロでした。

 私はコメントペーパーを配って、講義についての質問を書いてもらっています。学生はよく書くのですが、その奨学金の時には普段の2倍3倍でした。とくに驚いたのは、表で終わらずに裏にも書く学生もいました。

 自分の頃の授業料は年間30万、奨学金は月2万円台でした。

 今は月に8万・10万・12万という学生が大量にいます。しかも100名の受講生のうち、約70名が利用していることがわかりました。3回目の講義の時、学生たちと討論しました。「不安で仕方がありません」「頑張って返します」「頑張っても返せないだろう」と。

 なんとかしたいのだったら「会」を作りなさいと言いました。

 私の講義の時間中に「愛媛大学学費と奨学金を考える会」は結成されました。この会は私の講演会や、奨学金についての学習会や学内でのチラシ撒きなど、様々な活動をし、現在の私の活動の原点になっています。

悪化の一途だった奨学金
 私は、2011年4月に愛媛の松山大学から愛知の中京大学に異動しました。

 この奨学金の問題の発見が遅れた世代間ギャップ解消のために第一関門は奨学金について日本育英会の時と、今の日本学生支援機構では完全に変わっているということ、このことを伝えることから始めました。【別表1】

 一昨日、私のところに相談にきた名古屋の学生は、第1種と第2種の両方で18万4000円借りていて総額は1000万を超えていました。今年に入ってからこの18万4000円という相談は私のところだけで2桁を超えています。

 全国では、どれだけの学生が1000万円以上の借金を背負っているかということです。

 バーニーサンダースはアメリカでも170兆円の負債をかかえていると書いていますが、こういうことが日本中で起こっています。第二種奨学金は上限は大学院は15万円まで、法科大学院は22万円となっています。

 奨学金制度は悪化の一途をたどってきましたが、見事に資本主義の金融資本主義化と結び付いていると私は思います。有利子が導入されたのは今から34年前です。1984年に日本育英会法が全面的に変えられて初めて有利子枠が作られました。当時は、時代が今よりずっとまともでしたから奨学金に利子がつくのはなにごとかという極めてまともな反対運動がありました。しかし、その運動を無視して当時の与党自民党は有利子枠をつくりました。

 2007年度以降は、銀行・証券会社の金融機関など民間資金の導入も始まりました。金融機関が奨学金という名前で金を貸し出して、大きな利益を上げています。

 日本は奨学金を貸与、さらに融資をやっています。奨学金返済が困難、奨学金は返済するものではないので、これは英訳できません。したがって私はスチューデント・ローンの返済困難と言いかえます。

 34カ国のOEC加盟国の中で17カ国が授業料ゼロ、16カ国が給付型奨学金です。唯一、授業料有料かつ給付型の奨学金がないのは日本だけ、という設定をして、運動を作り、今年からは給付型奨学金を実現させていくというのが経過です。

 そこに、新たな問題が起こっていることが明らかになってきました。「ブラックバイト」問題です。


【別表1】
 奨学金制度の現在と歴史
(1)奨学金制度の現在
 日本学生支援機構
 [第一種奨学金]無利息の奨学金。特に優れた学生および生徒で経済的理由により著しく修学困難な方に貸与を行う。
 [第二種奨学金]利息付きの奨学金。利率固定方式または利率見直し方式のうち、申し込む際にいずれかの一方を選択する。いずれの方式も利率は年3.0%が上限。第一種奨学金よりゆるやかな基準によって選考された者に貸与する。
2017年度 入学者の貸与月額
国・公立     自宅通学  自宅外通学
第一種奨学金    45,000円   51,000円
私立       自宅通学  自宅外通学
          54,000円   64,000円
第一種奨学金は30,000円を選択することも可能
第二種奨学金  30,000円・50,000円・80,000円・100,000円・120,000円のいずれか、大学院は15万円まで、法科大学院は22万円まであ。
(2)奨学金制度の変化
第二種奨学金(利子付き)の導入
 政府は大学の学費を引き上げる一方、1999年に財政投融資と財政投融資機関債の資金で運用する有利子貸与制度をつくり、一般財源の無利子枠は拡大せずに有利子枠のみ、その後の10年間で約10倍に拡大させた。2007年度以降は民間資金の導入も始まった。