トップ週刊新社会教育2018.12.04
2018.12.04
歴史修正主義が『考える道徳』を妨げる
杉原千畝の人道主義歪める教材が登場
道徳の時間 
 小中高校の道徳教育で、改憲政治団体・日本会議が歴史事実捏造による戦前・戦中の日本国家は人道主義≠フ教化を謀む。東京都公立学校教職員組合(東京教組)が10月27日、世田谷区内で開催した教育研究集会で、ドイツ語翻訳家の池田香代子さんが警鐘を鳴らした。

 第二次世界大戦中、リトアニアの領事代理だった故・杉すぎ原はら千ち 畝うね氏は、ナチス・ドイツの迫害により欧州各地から逃れてきたユダヤ人たちに、外務省の訓令に反し、ビザ(通過査証)を書き続け、約6000人の命を救った。

 杉原幸子夫人監修の『決断・命のビザ』では「文官服務規程……違反に対する昇進停止乃至馘かく首しゅ」の恐れとの「苦慮・煩悶の揚げ句……人道・博愛精神第一」に「職を賭して……実行し」たと記述(現に幸子夫人著『六千人の命のビザ』によると1947年、当時の岡崎勝男外務事務次官は「君のポストはもうない。退職して頂きたい。例の件によって責任を問われている」と述べ、千畝氏は47歳で依願免職になった)。

 こういう苦慮・煩悶、即ち心の葛藤を「考え議論する」のが、文部科学省の改訂学習指導要領に沿う授業のはずだ。

 学習指導要領は高校で特設道徳の時間を規定していないが、茨城県教育委員会は07年度から1年生に年35時間、道徳の時間を必修化した。これに伴い同教委が発行したテキスト『ともに歩む―今を、そして未来へ―』は、前記・原本の『六千人の命のビザ』から転載する際、(中略)とし、この心の葛藤を全て削除してしまっている(15年度から使用中の第3版に至る全て)。

 一方、同テキストは千畝氏が昼食もとらず、万年筆が折れ、腕が動かなくなるまでひたすらビザを書き続けた様子はそのまま引用した。

 これだと、後掲のような「大日本帝国政府が人道・博愛(人種平等)主義だったから、忠実な千畝氏は肉体的苦痛に耐え、懸命にビザを書き続けた」というような誤った印象を児童・生徒に押し付けかねない。

 今回、「嘘に支えられた『道徳』」と題し講演した池田さんは、「チェリー・ピッキング=都合のいい事例だけから結果を導き出す詭弁術」だと批判した。

詭弁の背景
 そして池田さんは、この詭弁術の背景を次のように分析し、千畝氏の抗命説を否定する歴史修正主義者らのABの動向に注意を促した。

 @ 80年代にメディア中心に千畝氏再評価の機運が高まり、90年代に日本政府が名誉回復に動き(00年10月、河野洋平外相が幸子氏に直接謝罪)、小中高校の社会・英語教科書や道徳副読本に登場するようになった。

 A 日本会議はこれに対抗し、広報誌『日本の息吹』99年9月号で、日本イスラエル商工会議所会頭≠ニ称する会員が「もともと八はっ紘こう一いち宇う を唱え、国際連盟発足時には、人4種平等案4 4 4 4 を提起した日本ですから、その趣旨からしてもユダヤ人を平等に扱うのは当然のことでした。(杉原氏の)行為が『日本政府に反抗して』というようにことさらに誤って伝えられてしまったことがいけなかった」(以下、傍点は筆者)と主張。

 B 同じく日本会議国際広報委員会等が00年9月、産経新聞社ビルで主催した特別シンポジウム「ホロコーストからユダヤ人を救った日本」においてでは、「第一次大戦後のパリ平和会議で国際連盟に対し、人種平等4 4 4 4 の提唱をし、また満州における五族共和の新国家建設を目指した日本の一貫した思想と政策」「南京事件を捏造して、日本がドイツのホロコーストと同じような虐殺を犯したというような国際的反日キャンペーンに対し、断固たる態度をとる」などを指摘する研究発表があり、警鐘を鳴らしていた。