2019.01.01
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人と人との交流が生まれる場所を |
子供食堂の名づけ親
『気まぐれ八百屋だんだん』店主・近藤博子さん |
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多い時は子ども50人に食事提供
1つルール
夕方の5時。東急池上線・蓮沼駅から歩いて数分の住宅街の一角に、手書きの文字で大きく「子ども食堂・だんだん」と書かれた看板が掛けられたお店がある。中をのぞくと、エプロンを付けた3〜4人の女性たちが何やら忙しそうに大量の料理を作っている。
とくに忙しそうなのは、店内で立ち回りながら、スタッフたちに指示を出し、自らも手を動かしている女性。その女性こそ、日本で初めて子ども食堂を始めたといわれる「気まぐれ八百屋・だんだん」の店主・近藤博子さんだ。
「食事の提供は、人と人との関わりを生み出すための一つのツールなのです」と話す近藤博子さん。親から満足な食事が与えられていない貧困家庭の子どもはもちろん、仕事で親の帰りが遅く孤食を強いられている子どもや、一人暮らしの人、実家が遠方のため孤独な子育てで自分を追い込んでしまっている若いママなど、様々な人たちが毎週木曜日に開かれる子ども食堂・だんだんに足を運ぶ。
訪れる人は食事だけにここへは来ていない。隣り合った人たちと声を掛け合い、大家族のように交流しながら食事をする時間が人々の心を癒している。
「子ども達はこうした関わりのなかで大きくなっていきます。ファミレスでは得られないものだと思いますよ。最近は貧困家庭の子どもだけでなく、親が仕事で遅く一人で食事している子どもが食堂に来ることも多いですね。親御さんの方も、木曜日は子ども食堂行っているから安心できる、と思ってもらえるようです」と近藤さんは言う。
「だんだん」は、子どもが一人でも安心して入れる低価格の食堂を作ろうと、近藤さんが6年前に全国に先駆けてオープンさせた。食事の料金は大人が500円。子どもはワンコイン。100円でも1円でも、ゲームセンターのコインでもOKとしている。中にはお弁当として食事を持ち帰る高齢の人もいる。
オープンは毎週木曜日の17時半から。15時半頃から、ボランティアの女性たち4〜5名で料理の準備をスタートする。メニューはその日にある食材を見て決定。毎回80食を準備し、多い時は50人もの子どもが「だんだん」にやってくる。子どもたちには、お菓子やジュース等のお土産も用意する心遣いだ。
島根県安来市の出身。高校卒業後、大田区の歯科医院に住み込みで働き歯科衛生士の資格を取得した。25歳の時に歯科技工士だったご主人と結婚。1男2女の母親だ。10年前に朝取りの新鮮な野菜を販売するため、「きまぐれ八百屋だんだん」をオープン。
当時は契約家庭に配達するのみだったが、近隣のお年寄りに「私にも売ってくれよ」と声を掛けられたのを機に店頭でも販売するようになった。同じ頃、当時高校生だった娘さんが学校の数学の勉強につまずいたことをきっかけに「ワンコイン寺子屋」をスタート。多い時では、小学生から高校生、夜間中学で学ぶ人など10人以上が通っていた。これが子ども食堂の原型だ。楽しくご飯を今では子ども食堂やワンコイン寺子屋の他、英会話、手話サークル、ベトナム料理教室、お灸カフェなど、他にも実に様々な教室を日替わりで開催している。お店を始めた頃から、地域の活動にも積極的に関わるようになった。教育関連の会議や区内の子育て支援のためのすくすくネット会員となり児童館に出向いている。
また、大田区福祉計画推進会議の公募委員でもある。子ども食堂は6年前にスタートした。「だんだんのなかで子ども食堂は新参者なんですよ」と近藤さんは笑う。きっかけは店に訪れていた小学校の教員をしていたお客さんから、「家での食事がバナナのみという子どもの話を聞いたこと」だという。
「だんだん」に来る人は、それぞれ色々な理由を抱えてやってくる。「ここは、日頃抱えている肩の荷を降ろせる場所でありたい。中には家庭で深刻な問題を抱えていて、悩みを打ち明けられることもあります。一人でも来てよかった≠ニ言ってくれる人がいたら存在価値を感じられるし、続けようかなと思えますよね。これが私の原動力かな」。全国に様々な場所で広がりを見せている子ども食堂だが、今後運営していく上での課題を近藤さんに聞いてみた。
「困った子どもに食事を提供してあげなきゃ≠ニかしてあげよう≠ニいう想いが強いと、どんどん負のオーラが出てしまって、逆に必要としている人たちが来づらくなってしまうと思うのです。あくまで皆で楽しくご飯を食べられて、集える、誰でも来られる場所である事が大事」という。
取材も終わりかけの頃、いつも子ども食堂を手伝ってくれているという男子中学生のグループが、ゾロゾロと店にやってきた。近藤さんは「おかえりなさいませ〜」と笑顔で迎え入れる。「今日放課後実習があって遅くなったよ」「手洗ったらおつかい行ってきてよ」まるで実の家族のような会話が繰り広げられる。
小学生の時から食堂に通ってきている子どもたちだという。「教職じゃなくても、こうやって子どもの成長に寄り添えるのが嬉しいですよね」と笑う近藤さん。まるで訪れる子どもたちのお母さんのようだった。
子ども食堂とは 子どもやその親に無料、または安価で栄養のある食事、温かな団らんを提供する日本の社会活動。2010年代頃からテレビやマスメディアで報じられたことをきっかけに活動が活発化している。12年に大田区の「気まぐれ八百屋だんだん」や「要町あさやけ子ども食堂」がオープン。15年に子ども食堂同士の食材や情報の連携を目的にこども食堂ネットワークが発足。翌年に、こども食堂ネットワークと豊島子どもW
A K UWAKUネットワーク(栗林知絵子理事)の共催で、こども食堂サミットが開かれた。 孤食の解決や、地域コミュニティの創出の有効な手段として日本各地で子ども食堂が急増している。食堂を支援する民間団体『こども食堂安心・安全向上委員会』(
湯浅誠代表)は、2018年の時点で子ども食堂の総数は2286カ所と発表している。
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