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『明るい不登校』創造性は「学校」外でひらく |
子どもの居場所作る |
NHK出版新書 |
小中学校の不登校人数は、2017年度で14万4031人となり過去最多となっている。この数字は深刻な事態を示している。17年度には千人当たりで14・7人が不登校ということになる。
もっと詳しくみれば文部省の発表では、2017年に年30日以上欠席した不登校児童は小学生が前年度比15・1%増の3万5032人(千人当たり5・4人)である。中学生は5・6%増の10万8999人(千人当たり32・5人)で、中学生全体の3・25%にものぼっている。
現代社会では不登校児童は増加の一途をなぜたどっているのだろうか、と疑問がわく。不登校に面と向かっているのがフリースクールだ。
この問題を深く考える本が出版された。東京シューレ理事長の奥地圭子さんの『明るい不登校』―創造性は「学校」外でひらく(NHK出版新書)である。
この本は、奥地さん自身の体験から生み出されているので現実感と説得力がある。
「40年あまり前、転校先の小学校で私の息子は『登校拒否』になりました。当時、私は別の小学校で教員を務めていましたが、息子のこの状態を受け入れられませんでした。
私が、そうした子らを受け入れるフリースクール『東京シューレ』を設立してから、今年で35年目になります。その間、私は当初とは180度違う価値観を身につけ、それに沿って活動を行ってきました」
「180度違う価値観」とは何か。世間の常識から考えれば、「多少のことにはくじけず登校してほしい」「教師の子が登校拒否などみっともない」などです。勉強が遅れる、進学できなくなる、といった不安が本人を含む家族の中にいらだちを作り出してしまう。真っ暗な「トンネルの中の日々」を過ごすことになる。
「ひきこもり」になって、絶望感にさいなまれる生活を誰もが過ごす条件がある。
本人たちからすれば「居場所」がないのだ。学校中心の考えからすれば、社会から疎外されてしまった子ども(人間)として観られていく。だから無理に学校に戻そうとするだけでは問題の根本は何も解決をしない。世の中には根強い「学校信仰」なるものがはびこっている難しさがある。
不登校問題は、現在の子どもたちと学校制度の間でのミスマッチが生じていることに問題の複雑さがある。
この壁に穴を開け、道を切り拓いていくしかないのだ。それは学校以外の多様な学びが求められているということでもある。
その第一は、子どもの身になって考えることだ。学校に居場所がなくなれば、子どもたちが存在できる場所を作るしかない。
今日、未成年者の自殺が増え続けている。人間関係に苦しむ若者の自殺が増える時期が、夏休みや長期の休み明けに起きる傾向がある。子どもに限らず人間は、自分の存在できる居場所があることが生きていくうえで最も大切なことだ。
東京シューレの奥地圭子理事長は、代表メッセージで「私達は、多様なあり方が選べる制度があり、かけがえのない個性と学ぶ権利が守られ、子どもも親も安心して暮らせる社会を目指しています」と心がこもった呼びかけをしている。
悩みながら居場所を探し続けている子どもたちへ、温かい手を差し伸べて人間らしく生きていける学びの場を共に一歩、一歩と歩むことで希望を抱ける「明るい」人生を追い求める権利は誰しもが持っている。
どんな時にでも人間の尊厳は守られなければならない。それが政治、社会の責任だ。
【フリースクール「東京シューレ」のあゆみ】
1985年 東京シューレ開設(北区)。88年 文部省(当時)調査で「登校拒否は怠け」との新聞報道に子どもが全国調査。90年 文部省が「不登校は誰にでも起こりうる」と認識転換。翌92年には「フリースクール等の出席を指導要録上出席扱い可」と通知、93年にフリースクールに通う小中学生の学割定期適用を承認。91年 東京都北区東十条から現在の北区王子に移転。94年 在宅不登校支援として「ホームシューレ」スタート。「東京シューレ大田」(東京都大田区)を開設。95年 「東京シューレ新宿」(
東京都新宿区)を開設。99年 知的探求の場「シューレ大学」を開設。99年 東京都よりNPO認証。2000年 「第8回世界フリースクール大会(IDEC)」を東京に招致、開催。01年 NPO法人フリースクール全国ネットワーク設立に尽力。03年 「吉川英治文化賞」「朝日のびのび教育省」受賞。千葉県協働の居場所をスタート(現・流山シューレ)。06年 学校法人東京シューレ学園が認可。07年 「東京シューレ葛飾中学校」(東京都葛飾区)開校。09年 「第1回日本フリースクール大会(JDEC)」の開催に尽力。「政策提言」を発表。以後JDEC毎年開催に協力。09年 「不登校の子どもの権利宣言」発表。10年 東京シューレ25周年祭開催。11年 東日本大震災支援プロジェクト実施。自主映画『不登校なう』『僕は僕でよかったんだ』完成。12年 札幌自由が丘学園三和高等学校連携で東京シューレ学習センター開設。高卒資格が取得できるように。いじめに関して文科大臣と子どもたちが面会。13年「社会貢献者表彰」「ペスタロッチー賞」を受賞。14年 内閣総理大臣が東京シューレ(王子)を視察。15年 東京シューレ30周年祭開催。「フリースクール検討会議」委員に奥地就任。東京シューレ流山を移転開設。16年 不登校・学校外での学びを応援する「普通教育機会確保法」が成立。17年「第2回アジア・太平洋フリースクール大会(APDEC)」を東京に招致、開催。18年 東京シューレ大田(東京都大田区)を新規開設。北区提案協働事業委託。文科大臣が東京シューレ葛飾中学校視察。19年 世田谷区「ほっとスクール希望丘」委託事業。
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