トップ週刊新社会教育2019.10.22
《大学入試共通テスト》受験生や教育現場の混乱 深刻
教育の「私企業化」を推進
中京大学教授  大内 裕和

問題多い英語民間試験
 これまでの「センター試験」に替わって、2020年度の大学入試から「大学入学共通テスト」の実施が予定されている。この「大学入学共通テスト」が大きな社会問題となっている。

 「大学入学共通テスト」は英語民間試験の実施、そして国語と数学の記述式問題の導入などを主な特徴としている。

 英語民間試験については、7種類の異なる試験の中から自分の受ける試験を選択することになる。しかし、異なる試験の成績を公平に比較できるのかという疑問が存在する。異なる民間試験の成績を比べるために、「各資格・検定試験とCEER(ヨーロッパ言語共通参照枠) との対照表」を大学センターは作成した。しかし、各テストのスコアとCEERとの対応づけは、そのテストを実施する団体が独自に行っていて、文部科学省や第三者機関による検証は行われていない。

 その公平さには大きな疑問が残る。

 また、英語民間試験は経済的負担も重くなる。英検2級が7000円、TOEFLだと235ドル=約2万5000円近くかかる。それに加えて、これまでのセンター試験よりも試験会場数が限られることから、多くの受験生が高額の交通費を支払うことを強いられる。離島や遠隔地の高校生の場合には宿泊費も必要となる。

記述式問題の採点に不安
 2021年1月に実施予定の「大学入学共通テスト」の問題も深刻だ。数十万人もの規模になる受験生の国語や数学の記述式問題の採点を、短期間かつ公平に行うことは極めて困難だ。

 記述式問題は、選択式問題よりも試験実施後に行う自己採点を正確に行うことが難しい。プレテストでは国語の自己採点と採点結果の一致率が7割程度にとどまった。実際の得点と自己採点の不一致は、受験する大学の選択や合否の予測に甚大な悪影響を及ぼす。

 これらのさまざまな問題点の指摘や現場の不安に応えることなく、はじめから「スケジュールありき」で政府・文部科学省が事を進め、教育現場や受験生に十分な説明を行ってこなかったことが最大の問題だ。

 受験生に大きな影響が及ぶ変更がある際は、2年前には予告すると文部科学省自身が原則として定めている。ところが現在の時点で、「大学入学共通テスト」まで約1年3カ月、英語民間試験まで約6カ月しかない。試験を受ける現・高校2年生やその他の受験生、現場教員、保護者から不安の声が上がるのも当然だろう。

 現場の不安や今回の入試改革への批判は広がっている。全国高等学校校長協会は9月10日に、英語民間試験について2021年度以降への延期と制度見直しを求める要望書を文部科学省に提出した。9月13日の夜には、文科省前で2020年度からの大学入学共通テストの中止を求める抗議行動が行われた。

 英語民間試験の実施については、文科省が設置したポータルサイトを見ても、実施日や試験会場の詳細が明らかとなっていない試験が、今日に至っても多数存在している。

 また、9月1日時点では英語民間検定試験の活用について、国公私大の3割弱が「未定」の状態だ。こうした状況のなかで、9月18日に英語民間試験の一つである英検の申し込みが始まった。英検の予約金は3000円で、運営側は当初、受験しなくても返金しない方針だったが、高校側の反発や文科省の要請を受け、予約受け付け終了翌日の10月8日から15日までに申し出があれば、手数料を引いて返金することになった。

 自分が志望する大学がどの英語民間試験を活用するかが未定であり、かつ実施日や試験会場との関係で実際に受けられるかどうか分からない状況で、予約金を支払わなければならない受験生の現状は、「不安」を通り越して「混乱」の段階に入っている。受験生に大きな被害及ぶ教育現場や受験生に混乱をもたらす深刻な事態に至った以上、新共通テストの2020年度からの実施は見送るべきだ。

 10月13日の午後、「新共通テストの2020年度からの実施をとめよう!10・13緊急シンポジウム」が、東京大学国際学術研究棟第5教室(本郷キャンパス)に300人を集めて開かれた。

 新共通テストの導入は、教育の「民営化」=「私企業化」を推し進める新自由主義改革であり、高校2年生をはじめとする受験生が大きな被害を受けることになる。新共通テストの2020年度からの実施を見送り、ここまで出されてきた課題を丁寧に再検討すべきだ。