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『大学入学共通テスト』反対運動の意義 |
大学入試の私企業化を阻止 |
中京大学教員 大内祐和 |
英語民間試験活用と国語・数学の記述式
2019年8月から、私は「大学入学共通テスト」問題に取り組んだ。
10月13日、「新共通テストの2020年度からの実施をとめよう!10・13緊急シンポジウム」を東京大学で開催し、「入試改革を考える会」(代表:大内裕和)を結成した。英語民間試験を受けるための「共通ID」の大学入試センターへの事前申込開始が、11月1日に迫っていた。時間が限られていたため、私たちは英語民間試験活用の数多くの問題点のなかで、教育の新自由主義改革による「経済格差」「地域格差」の拡大を集中的に問題化した。
10月24日、萩生田光一文科相が出演したTV番組で英語民間試験が話題となった。司会者の「お金や地理的に恵まれた生徒が有利になるのではないか」という質問に対し、萩生田文科相は「そこは自分の身の丈に合わせて二回を選んで勝負してもらえれば」と答えた。ここでの司会者の質問には、それまでの「経済格差」「地域格差」を問題化する社会運動が影響している。
萩生田文科相の「身の丈」発言は「経済格差」による「教育格差」の拡大を容認したものであり、そのことが多くの人々を憤激させることになった。11月1日、萩生田文科相は英語民間試験の2020年度からの実施「延期」を決定した。
同じ日に「入試改革を考える会」は記者会見で、英語民間試験は大学入学共通テストの「ごく一部」であり、次の課題は「国語・数学の記述式問題」であることを強調した。英語民間試験の実施「延期」によって事態の幕引きを狙っている安倍政権に対して、敏速な反撃を行う必要があった。
国語・数学の記述式問題についても問題点の絞り込みを行った。50万人以上の受験生がいる試験での記述式問題の出題は、試験の「公平性」「公正性」を確保できない点を集中的に問題とした。
臨時国会会期末近くの12月5日、記述式試験の導入をめぐり公明党は萩生田文科相に対して見直しと延期を申し入れた。臨時国会会期後の12月17日、萩生田文科相は国語・数学の記述式問題実施「見送り」を発表した。
12月9日のNHK世論調査では、国語・数学の記述式問題について「予定どおり実施すべき」が17%、「中止すべき」が59%であった。世論の圧倒的多数の反対が、記述式問題実施「見送り」につながった。
新自由主義の格差拡大幅広い世論と結びつく
今回の「大学入学共通テスト」反対運動は短期決戦であったことから、新自由主義による「経済格差」「地域格差」の拡大、試験の「公平性」「公正性」の解体など、多くの人々が関心をもつ問題点に絞って、それを分かりやすく訴えたことが功を奏した。
英語民間試験の活用と国語・数学の記述式問題の実施は、大学入学試験の実施や採点の業務を民間企業が行うことが前提となっていた点で、大学入試の「民営化」=「私企業化」を進めるものであった。しかし、大学入試の「私企業化」は地域格差・経済格差の拡大、公平・公正な採点の困難を伴っており、それらの問題を明確に開示する社会運動によって破綻することとなった。
2019年の「大学入学共通テスト」反対運動は、新自由主義への的確な批判を行い、幅広い世論と結びつけば大きな力を発揮することを示したといえるだろう。
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