トップ週刊新社会教育・町2020.07.07
児童相談所に求められるもの 「介入」と「支援」の分離を〜

虐待対応と保護者支援
 近年、児童虐待件数が毎年増加し、2018年3月に東京都目黒区で5歳の女児が、19年1月に千葉県野田市で10歳の女児が、19年6月に札幌市で2歳女児が虐待を受け亡くなるという痛ましい事件が続けて起こり、社会的に大きな問題となり、児童相談所が大きな批判を浴びた。

 これは該当児童相談所だけの問題ではなく、どこの児童相談所でも起こりうる問題で、全体的な取り組みが求められ、政府も児童福祉法等の改正、緊急総合対策等を策定し、児童福祉司や、心理司等の大幅増員を図り虐待対策を推進している。

 痛ましい事件が2度と起きないためにも、虐待対策を推進する必要があり、児相の責務も重たいが、今回はこのことではなく、児童福祉司として働いていて、最近感じることについて述べてみたい。

 児童虐待の仕事が増える一方で、児相本来の仕事である子どもや保護者の「支援」、「相談」の仕事が減っているのではという実感、ジレンマである。 

 虐待対応が忙しく、支援にまで手が回らないという児相側の問題よりも、この間の虐待報道を受けて、保護者が児相を敬遠し、相談しないという面が強くなっているのではと感じる。児相に相談したら、子どもを施設に入れられるのではと恐れている人が実際にいる。

 アパートで、激しく泣く子どもを育てて苦労しているお母さんが、児相に通告されることを恐れ、子どもが泣くと、子どもの口をふさぐという話も聞いたことがある。

 以前なら泣き声通告で訪問したお母さんに、子育ての相談に乗ることができると話すと、児相に相談に来られるお母さんもいたが、最近は少ないと感じる。強権的な児相のイメージが定着してきたのではないかと思う。 
 虐待の根本的な解決は、虐待をした保護者を責めているだけではだめで、保護者支援が求められている。

 虐待している親の多くが、自らも虐待を受けて育ってきたという事例は多い。子どもを守ることと同時に、加害する保護者の心に寄り添い(虐待を許容するということではなく、虐待に至る気持ちや背景をまず受容する)、虐待をしないようペアレントトレーニング等に取り組むことが求められている。

 児童相談所で虐待対応を強化すると、支援が後退するというジレンマを解消するためには、職権一時保護(親や子どもの同意がなくても、裁判所の判断なしに、児相の判断だけで親子を分離し、子どもを保護する)というハードアプローチ(介入)とソフトアプローチ(支援)という正反対の対応を、福祉の相談機関である児相で行っていることに原因があるのではないか、この二つを分離する必要があるのではないかと思う。

進まぬ児相の話題の確定
すでに欧米等では、一時保護の必要性を裁判所で判断し(裁判所が一時保護の許可証を出す)、一時保護の実行は警察で行い、児相はその後の支援、親子の再統合を行うという形に分離されている。

 そうすれば保護者も児相に相談しやすくなり、虐待の真の解決に向けた支援も行えるのではないかと思うし、そのことが子どもの権利を守ることにもつながるのではないかと思う。

 この間の法改正等におけるワーキンググループで、介入と支援の分離について、一部の学者から意見は出るが、検討対象にはならず、公式の文書には一切出てこず、マスコミで取り上げられることもない。

 法曹界が反対しているという情報もあるが、真の問題解決のためにも、ぜひ実現しないといけない課題である(なお、介入と支援の分離については、この間の法改正等の文書にその言葉が記載されているが、これは児相内での介入班と支援班の分離であり、この議論とは違う)。