トップ週刊新社会教育・町2020.10.27
「改憲教科書」採択に有利狙う 
        公民教科書「自由・権利」記述に 集団的自衛権・交戦権も

 
 東京都教育委員会は『令和3~6年度使用教科書調査研究資料(中学校)』(以下『資料』)を作成し、都教委が「採択権限あり」と主張する、都の全区市町村教委の教育長と教育委員に読ませようと7月上旬、一律5部ずつ郵送した。

 『資料』は社会科公民分野教科書の「自由・権利」の記述内容″調査″で、「集団的自衛権、交戦権」等の用語もカウントした。

 この奇妙な調査に対し、都民らが「学問的根拠を含め、理由を説明頂きたい」などと請願を提出。都教委は8月、「厳正かつ客観的に教科書の調査研究を行っています。……自由・権利について記述している用語等を恣意的に取捨選択等することなく調査を行った結果です」と文書回答した。

 請願者が「取捨選択……なく」の意味を電話質問すると、都教委は「個人の権利と限定したり、『自由・権利』とは何かと解釈したりせず、『権』が付く語は全てカウントした」と答えた。

 通常、人の思い浮かべる天賦人権説や一人ひとりの基本的人権(生存権、表現の自由等)ではない、「国家(政府)の権力・権限行使」まで″自由・権利″に機械的にカウントする、教育的効果なき無意味な作業に、都教委は税金を浪費し続けている(2015年も同様)のに開き直っているのだ。

 『資料』は、① 「権利」の記述箇所数が、″新しい歴史教科書をつくる会″系の自由社がトップの192で、同会分裂後、改憲政治団体・日本会議系のメンバーらが執筆した育鵬社が第3位の137だと明記し、② 「臣民の権利」までカウントしている。

 このため、請願は①について「特定の政治団体メンバーが執筆している2社の″教科書″は『国家の権力・権限』を多く載せると共に、「個人の権利は国家との関係では制限される」といった独自の内容も記述しているから、『資料』の2社の「自由・権利」の箇所数は膨れ上がってしまう」と指摘。

 その上で請願は、「この箇所数水増しは、区市町村教委に2社を採択させようとする意図があるのでは?」と問い、②に対しては「失効している大日本帝国憲法下の″条件付きの権利″は、カウントするべきでない」と質した。

 だが都教委は①②とも、「自由・権利について記述している用語又は箇所数を数えた調査結果です」と、判で押したような同文の回答に留まっている。

 ところで育鵬社・自由社は、他社の教科書にない「国防の義務、兵役の義務」を記述しており、『資料』はこれも「責任・義務」の記述箇所数にカウント。

 これに対し請願は「日本国憲法に違反する(憲法にない)″義務″まで計上した『資料』は憲法違反だ。義務の箇所数を水増しし、保守系の教育委員の多い区市町村教委に育鵬社・自由社を採択させようとする意図があるのでは?」と追及。

 だが都教委は、「『責任・義務について記述している内容』は、責任・義務について記述している用語を数えた調査結果です」と、間いに正対せず①②をコピーアンドペーストする回答に終始した。都教委の誠実さを欠く、面子(めんつ)優先の教育行政が露見した事案だ。