トップ週刊新社会教育・町2020.07.14
児童相談所に求められるもの 
      「行政のチームワーク」と「地域のネットワーク」の強化

 この数年、児童虐待死が連続してマスコミで報道され、児童相談所の対応への批判が高まっている。直近では、千葉県市原市で、母親が生後10ヶ月の女児を衰弱死させた事件が報道され、千葉県と市原市の対応に対する批判が行われている。児童虐待については、児童虐待防止法が制定され、通報体制が義務化されたため、相談件数は大幅に増えている。しかし、それに中心的に対応する児童相談所の体制は十分ではない。その原因は、業務を担う職員の量と質の両面で課題を抱えているためである。量としての人員については、改善されつつあるようだが、人員増だけでは機能しない組織体制の問題がある。

習熟した児童福祉司の確保を

 児童相談所には様々な職種が存在するが、児童虐待等について直接的に対応するのは、児童福祉司である。大半は、行政職一般職員として採用された事務職が多い。社会福祉士などの専門職採用を求める意見もある。筆者も事務職として採用され、23区の福祉事務所で長年生活保護担当ケースワーカーとして働いた。生保ワーカー時代(1975年から1996年)には、児童虐待のケースで、東京都職員の児童福祉司と一緒に対応したことがあった。その職員は係長級であり、ベテランも多かった。

 しかし、都では1990年代に人事任用制度の改正があり、主任に昇任すると局間異動、係長昇任で局内異動が原則化され、スペシャリストの育成が困難になった。今は児童相談所への異動希望者が少なく、意に沿わない異動の場合「3年我慢すると戻れるから行って来い」という場合もあると聞いている。

 私の経験から言うと、私は必ずしも専門職論者ではない。23区のケースワーカーは事務職採用であるが、社会福祉系大学を卒業して来る職員もいる。しかし、長く続けられるかどうかはかなり属人的な傾向が強い。

組織的な対応が必要

 児童福祉士の業務の大変さは、限られた情報の下で迅速かつ的確な対応が求められることである(生活保護ワーカーは、良し悪しはあるが開始時の調査や職権での調査でかなりの情報収集をして対応しているが、児童相談所の情報はそれに比べ少ない場合が多い)。

 虐待者には暴言を吐く人、中には暴力を振るう人もいる。リスクがある場合には、誰しも怖いし、極度の緊張を強いられる。それが続くと、疲弊や心理的負担が増え、アウトバーンする場合もある。担当者を孤立させてはならない。

 それらの緩和のためには、できるだけ正確な情報を多く収集する必要がある。職員の中には、電話連絡で済まそうとする人も見受けられる。ドラマ『踊る大捜査線』の「事実は現場にあり」ではないが、できるだけ現場へ行く(アウトリーチ)必要がある。部屋の状況、対象者の服装・表情・身体状況(栄養状態や傷など)などを把握できる。いかにシグナルを早くキャッチするかが重要である。

 リスクがあると感じる場合には、1人では訪問せず、複数で訪問する必要がある。そのためには、職場での恒常的なチームワークがないとできない。担当者個人任せではなく、係単位、所単位での連携・協力体制がないと適切な対応はできない。チームワークはメンバーの出入りによって流動化することが多く、それを作り維持することは簡単ではないが、ベテラン職員(できれば労働組合役員)がそこに座っていることが求められる。

 もう一つは、地域でのネットワークづくりに努める必要がある。子ども家庭支援センター・保育園、学校、福祉事務所・民生委員など関係機関との情報交換で把握できる情報は、極めて役に立つ。恒常的な相互連絡体制を築き、ケースカンファレンスを開催することも求められる。

職員の短期育成はできない

 次に職員の体制について触れる。

 適正な人員配置は絶対的な条件である。一方で、児童相談所では、専門的知識に欠けている職員が多い、専門性が蓄積されていないとの声も多い。それは、専門職配置で解決するとは思えない。

 問題は、人事異動の速さ(業務の負担から解消されたいがために職員自体からの希望もある)である。事務職には、行政の人事方針として、ゼネラリスト(総合職)を求め、スペシャリスト(専門職)を敬遠・軽視する体質があるので、定期的な異動を当たり前と思っている職員も多い。児童福祉司として1人前になるには5年〜10年かかるとも言われる(私は、福祉事務所のケースワーカーも同様と考える)。

 そして、職員の中には同じ職場で働き続けたいと考えている人は少なからず存在する。最初から、専門職を採用することの必要性は否定しないが、専門職であっても新人は経験がないのは事務職と同じである。福祉職か否かを問わず、人権感覚を持ち、学習意欲があり、対人関係をいとわない、ある程度の忍耐力のある職員であれば、続けられるが、そうでないと続かない。

 研修の充実、社会福祉士資格の取得への援助などを行い、息の長い職員育成策を講じるべきだと考えている。