TPP (環太平洋経済連携協定)の第18回会合が7月15〜25日、マレーシアで開かれ、日本は23日の米議会承認を受けて同日午後から初参加した。12カ国目となった遅れを取り戻そうと、世界のGDPの4割を占める域内市場の収奪をめぐる熾烈な駆け引きが本格化する。
TPPの交渉分野は21、協定は29章に及ぶ。今回会合の交渉分野は13、日本はそのうち6分野の交渉に参加した。交渉内容は4年間非公開の秘密保持契約のため、国民はもとより交渉団に同行した業界関係者にも明かされていない。
しかし、25日の共同声明は@農産品、工業製品の関税については「交渉を加速させる」、A知的財産、環境などについては「困難な課題がある」とし、米国が求めていた「年内妥結」の表現は消えた。この結果を受けて、甘利TPP担当相は「遅れて参加したハンディは大きくない」と関税撤廃交渉では巻き返しの余地ありと見て取った。
多国籍企業が主役
TPP交渉参加はグローバル(多国籍)企業中心の財界の悲願だ。3月15日、安倍首相は交渉参加を正式表明して各国に通知したが、伏線は民主党政権から敷かれていた。2010年、菅政権が参加検討を表明、野田政権は11年に事前協議開始を、12年には交渉参加を宣言。安倍首相の正式参加表明は2月の日米首脳会談で、「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明確になった」ことが表向きの理由であった。
自民党はこれをもって、昨年12月の衆院選で掲げた「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」との公約を解除。そして今回の参院選の公約では「守るべきものは守り、攻めるべきものは攻め、国益にかなう最善の道を追求する」とうたった。
TPPをめぐり自民党と地元JAの推薦を受けたみどりの風の候補者が激突した山形選挙区。地元自民党は「聖域が守らなければ脱退する」と争点をボカして競り勝った。
ルールの押し付け
安倍政権はTPP参加をアベノミクス第3の矢=成長戦略の基軸政策と位置付ける。関税交渉で攻めるのは自動車など製造工業製品、守るのは重要農産5品目。第18回会合の声明を受けて、重要5品目の関税交渉の余地が確認され、甘利担当相は胸を撫で下ろした。あとは何を守るかの順位付けと加工用米の関税引き下げなどの余地を検討することだ。
参院選に勝利し、TPP参加へ国民的承認を得たとする自民党政府にとって重要なテーマは、関税問題から非関税障壁(相手国の経済・社会構造の改革)に移った。TPP体制下の農業は、「10年間で農業・農村の収入を倍増する」(安倍首相)ことを手当として、大規模化と株式会社経営の拡大を柱に構造改革が進むことになる。
こうして日本は農業を犠牲にグローバルな競争戦に突入する。アジア太平洋の市場収奪戦に勝ち抜くことこそが「国益」。TPP参加12カ国中、米国のGDP規模は59・2%、日本は22・2%、その他10カ国合わせて18・6%。「高水準の自由化は世界で最も力のある米国が主導しないと進まない。そこの経済大国の日本が加わることで大きなうねりが生まれる」(槍田三井物産会長)。財界にとって、TPP参加は「日本経済全体の最適化」である。
米国側としても「日米の連携が21世紀型の通商ルールをつくる。TPPで経済の日米同盟が明確になる」(チャールズ・レイク米中小代表部に本部長)という立場だ。日米のグローバル企業は連携し合い、互いの市場を食い合う。
国際法上、国家や個人よりも外国投資家を優越するISD条項は、日本にとって「ありがたいルール」(槍田会長)。日本はすでに締結している30の投資、経済協定でフィリピンを除く29協定にISD協定が入っている(若月浩二氏)。日本は、いわば米国資本に食われる前に他国を食う立場を確保しているのだ。
【重要5品目】コメ58、小麦・大麦109、牛肉・豚肉100、乳製品188、甘味資源作物131の586品目。関税をかける輸入品9018品目の6・5%を占める。コメの関税率は精米778%、玄米568%、モミ771%、加工用の米(米粉)550%。これにTPP推進派は「法外な関税」と批判する。
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