中道右・左派は大きく後退
揺れる欧州
3月のイタリアの総選挙で「反緊縮・反EU」の「五つ星」と極右の「同盟」が躍進し、中道右派と中道左派は大きく後退した。
2カ月以上の政治空白の後「五つ星」と「同盟」の連立政権が一旦発足したが、反EU・反緊縮の経済担当相人事を大統領(中道左派・親EU) が拒否。政情不安でイタリア国債は売られ、一時NY株まで急落した。大統領は「緊縮派」の元IMF役員を経済担当相に指名したが、「IMFの手先」では議会で承認されるはずもなく再選挙が云々された。再選挙なら「五つ星」がさらに躍進すると見られ、追いつめられた大統領と両党が妥協し6月6日に「五つ星」が推すコンテ氏を首相に両党の連立政権は発足した。
さらに6月1日にはスペインで政権が不信任され、中道左派の社会労働党と「反緊縮」新興左翼のポデモスを軸に連立政権が発足した。直接は汚職への反発だが、背景にはEUの緊縮政策への不満がある。この連立も不安定で総選挙の可能性があり、その際はポデモスがさらに伸びると予測され、イタリアと並び欧州の台風の目になりうる。
強引な伊連立政権
さて、「五つ星」が躍進した目玉は月額平均10万円程のベーシックインカム(以下BI)支給公約だ。AFPによると3月の総選挙直後、各地の税務署に「公約したBIを受けとる手続きに殺到した」という。生活必需品の購入の余裕すらないイタリアの貧困層はこの10年で3倍、人口の8%、500万人近くに増大している。
「五つ星」は、2年前にローマとトリノで市長選でBIを掲げ圧勝して世界的な注目を浴びた。その時すでに「財政破綻させる」とEU緊縮政策派の批判を浴びた。しかし「五つ星」の勢いは止まらず総選挙での躍進になった。
他方、極右の「同盟」は、所得税と法人税の税率を一律15%にするという。BIには年170億ユーロ必要なのに、税率フラット化で800億ユーロ税収減で両立できないはず。しかし、両党はECBに2500億ユーロの債務免除を求めるという。南欧は収奪されているのだからEUへの借金は踏み倒せというわけだ。この乱暴さも人気の秘密だろう。債権や株市場がヒステリックな反応をしたのもわかる。
6月5日のコンテ首相の所信表明演説は「ポピュリズムが人々の要求に耳を傾ける姿勢であるならば、我々はそれを実行する」。「失業者家庭や年金生活者などの所得補償、大幅減税」を宣言した。EUBやIMFと独・仏などの意向を代弁する『フィナンシャルタイムス』は、「財政赤字GDP比2%以内というEU財政規則は、BIと減税で吹っ飛ぶ」。
「ユーロ離脱しかないがそれはイタリアからの資本流出と金融危機、ひいてはドイツ銀行も危機にさらす大惨事になる」とおどした。株価は1・6%下落しイタリア国債利回り前日比0・2ポイント高と反応した。
「貧困の拡大」は共通話題
イタリアには、コービンの英労働党、スペインのポデモス、ギリシャのシリザのようなまっとうな左翼がない。彼らは、ユーロ離脱ありきではなくEU内の「反緊縮」国際連帯で労働者市民の生活と権利を守ろうとする。排外主義も採らない。これに反しイタリア新政権は波乱要因があまりに大きい。だからと言って、グローバル金融資本勢力と口をそろえて新政権の危うさを批判してもはじまらない。
イタリアの事態は、世界に「貧困の拡大」にどう向き合うべきかを突きつけている。BIの是非の議論も世界的に再燃しはじめた。左翼の政治運動や労働運動の社会的規制力が強い国では、BI以外の対処策も有効だが、イタリアのように民衆が頼るべき運動、組織が弱体で貧困層が砂上に分解している場合は、BIへの渇望は強いと考えられる。
しかしイタリアでは、過労死は日本のようにはないのではないか。かつて勤務時間中に昼寝休息できるので有名だった。それでも今回の事態がおきた。日本はわが身に照らすべきだ。
なお、EUの盟主ドイツの首相があわててユーロ圏の「南北格差解消めざし数兆円規模の投資」や欧州版IMF創設を提唱した。しかし技術革新の遅れた国への研究開発投資とか、構造改革の加速を条件に長期資金を提供する類で、相変わらず新自由主義的対応でしかない。ギリシャの比ではない経済規模のイタリアの動向はスペインと合わせ、世界を揺さぶるだろう。
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