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2018.12.11
貧困を脱する経済と米国資本の利権が対立
進歩と反動がせめぎあう中南米
 
 米国の「裏庭」、中南米諸国では豊かな資源と、国民の貧困からの解放を巡って米国資本の利権とがせめぎあっている。ブラジルのトランプと称される新大統領も誕生した。これらの背景と今後の展望を探る。

 ブラジル大統領選挙決戦投票(10月28日)で極右のボルソナロ候補が勝った。労働党のルラ元大統領は最高裁判決により、汚職容疑で立証されないまま刑務所に収監されて立候補を阻まれた。国内治安が悪化する中、選挙ではSNSが世論を誘導したと報じられた。

 11年にブラジル史上初の女性大統領に就任した労働党ルセフ大統領は、16年にソフト・クーデター(国家財政不正操作容疑)で弾劾され、テメル副大統領が大統領代行、そして大統領となっていた。新大統領は19年1月1日に就任する。

 西半球では21世紀に入ってから、次々と進歩的政権が選挙で勝利した。ベネズエラ、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビア、エクアドル、ニカラグア、パラグアイ、エルサルバドルなどである。共通する点は「新自由主義反対」である。

 しかし、この約20年間に選挙で敗北、あるいはソフト・クーデターで政権トップが排除されたり、政権自体が変貌するなど、困難に直面している。

政変の裏に米国の影
 そして、政変の背後には米国の公然、非公然の介入が見受けられる。ベネズエラの場合は現在、米国による経済制裁と反政府勢力への強力な支援による社会の不安定化、指導者抹殺、そして軍事的脅威にも直面している。

 しかし、こうした動きは米国の19世紀のモンロー宣言以来の、また第二次大戦後の歴代米国政府の外交政策、すなわち西半球諸国のレジーム・チェンジ=政権転覆を反映している。

 1954年、グアテマラのアルベンス政権は米多国籍企業の遊休地接収を行ったため追放。59年1月1日以来、途切れることなく今日まで続く対キューバ敵対政策、73年9月のチリ・アジェンデ政権の軍事的転覆、83年のグレナダ侵攻=ビショップ政権転覆、04年のハイチのアリステッド大統領の追放、09年のホンジュラスではセラヤ大統領の拉致など、米国による政権への介入は枚挙に暇はなく、「中南米・カリブ地域は米国の裏庭」との政策に変わりはない。

 失敗はしたが、02年4月には、ベネズエラのチャベス大統領(当時)を殺害し、政権転覆を図ろうともした。15年にはオバマ大統領(当時)が、「ベネズエラは米国の安全保障にとってきわめて脅威である」という大統領令に署名した。 

 10年9月にはエクアドルのコレア大統領(当時)を警察が拘束、軍が大統領を救出するという事件も起きた。

 13年7月にはロシアでの天然ガス輸出機構の国際会議に出席して帰国途中のボリビアのモラレス大統領の専用機が、欧州の複数の国から領空通過を阻まれ、ウィーン空港に緊急着陸するという事態も起きた。この事件はその後、「米国の要請」があったことが明らかになっている。

 これらは地域統合を進める中南米の反新自由主義勢力と米主導米州機構(OAS)との衝突を示唆している。地域統合とは19世紀の独立以来200年の歴史において諸国民が反植民地主義として実践してきた「われらのアメリカ」の構築の試みであり、21世紀に実現した複数の地域統合組織、UNASUR(=南米諸国連合)、CELAC(=ラテンアメリカ・カリブ海諸国共同体)、ALBA(=米州ボリーバル同盟)などである。

 経済的には米多国籍企業群と各国の国民主権の国有企業群との利害衝突である。ベネズエラはOPECによれば石油の確認埋蔵量は世界一であり、金の埋蔵量も世界最大と言われる。ブラジルの場合、水資源は世界の3分の1を占める豊かさである。

 巻き返しはエクアドルでも起きている。モレノ現政権が前政権の元大統領コレア氏訴追の動きを続け、同時に元副大統領グラス氏については身柄を拘束している。前政権はIMF/世界銀行の経済支配から離脱し、米軍基地を閉鎖し、社会政策を進展させる途上であった。現モレノ大統領はコレア政権(当時)の当初の副大統領であった。

メキシコ新政権誕生
 一方で、主権と独立を求める諸国民の勝利も続いている。

 メキシコでは今年7月に行われた大統領選挙で国民再生運動(MORENA)のロペス・オブラドール候補が勝利した(全32州中31州、12月1日就任)。同時に行われた連邦議会選挙・地方選挙でもMORENAおよび連携する労働党・社会結集党が議会内最大勢力となった。

 ニカラグアでは米国による厳しい経済制裁(=投資条件法)を受けながらもGDPは伸長、農業増産に成功し、食料自給をほぼ達成した。大西洋と太平洋を繋ぐ運河の建設も香港の会社と提携して進行中である。

 この運河計画はパナマ運河を越える規模であり、深度も28メートルといわれる。米政権はオバマ政権に続いて計画を阻もうと、メディアを通じて環境破壊を報じるなどの情報操作や、反対グループに資金を提供し、抗議運動をあおっている。

 運河の完成はニカラグアの経済活動にとってプラスになること、中国の影響が強まるだろうこと、パナマ運河の地位低下などで米国にとって不利になる。ニカラグアは、非同盟運動の積極的な担い手である。

 ちなみに非同盟運動は、米ソの冷戦構造の中61年に発足し、軍事同盟や軍事ブロックにも参加せず、紛争の拡大防止と平和と安全の維持に努力している。この運動は25カ国で始まり、現在130を超える国と国際機関が参加し、国連の核兵器禁止条約などを推進している。
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