IT先進国と高等教育社会
先日、韓国のある大手造船会社の役員と話す機会があった。
「日本では2025年までに造船、建築、旅行、農業、介護分野に外国人労働者50万人を確保しないと現場が回らないと言われていますが、韓国はどうですか」と聞くと、「いや?、造船分野は今、外国人労働者なしでは仕事が回りませんよ。受注は多いのに、韓国人は土日休日に一切出勤しようとしない」と溜息をつく。
「もっと給与や残業代を上乗せしたらどうですか?」と言ったら、「いや、最近の韓国
1944年に工事が始まった松代大本営地下鉄壕と天皇避難予定地であった賢所
(朝鮮人犠牲者追悼平和祈念碑) |
人は、何とか生活さえできれば、無理して稼ぐより、土日は家族サービスやら山登りなどの趣味を楽しむ傾向なんですよ。もう昔のようにがむしゃらに働く時代じゃないので、外国人労働者がいないと仕事が回らない」と言う。
確かに、韓国は長い日本の植民地支配から解放されたが、混沌状態の中で勃発した米ソ大国の代理戦争と言われる同族間戦争の結果、分断国家となり、廃墟と世界最貧国状態から抜け出すために、人々はわずかな稼ぎのためにも必死で働いてきた。
後発だからこそ、OECD残業一位国の不名誉さえ甘受しながら経済発展国を目指してきた。いまや韓国は世界トップアイドルのBTS(防弾少年団)などを輩出する大衆文化大国と評され、世界有数のIT先進国と高等教育社会になった。
その背景には激しい受験戦争や教育投資が存在する。核家族化から少子高齢化が進むと、子ども世代には苦労の歴史を残すまいと、親は子どもへの多稽古・高学歴・留学支援・結婚支援まで力を注いできた。
亡国の民の不幸を歴史から学習し、欧米諸国で活躍できる次世代育成にも力を入れてきたため、現在、在米韓国人は250万人を超えており、多くの若者が世界を股にかけて活動している。
一方、昨年度の韓国の出生率はOECD最低の0台になった。結婚は選択であり、一人暮らしを楽しむ人も急増している。
「過去」の歴史を「人類の未来」の礎に
2019年は、アジア初の民衆運動と言われる3・1独立万歳運動が展開されてから100年目にあたる。民族と祖国を断絶させた日本の植民地時代と自分らの過去を総括する節目として、韓国中が「民族」「歴史」に力を入れている。
すなわち自民族のアイデンティティー確立の模索に必死である。欧米を始め、韓半島以外の世界各地に暮らすコリアンは740万人にのぼる。西欧社会で身につけた世界人権宣言に基づく「人としての権利」から見ると、植民地時代の旧日本軍慰安婦や徴用労働者の生きざまは二度とあってはならない民族的体験である。
なのに、「慰安婦はなかった、娼婦であった、植民地時代もなかった」「徴用工はロマンだった」と叫ぶ人さえ現れた。「日本は娼婦なら殺してもよい国であったのか」「徴用工がロマンなら、同じ仕事を一カ月やってみよ」と進言したい。
最も安全な場所・日常生活で自分が搾取・酷使され、命が脅かされ、手足がなくなる可能性が低いからこそ、想像力もない発言がネットに氾濫する。
日韓とも、多くの世襲権力が牛耳る社会だからこそ祖先美化の傾向が根強い。理性のない無責任な人ほど「断交しろ」と憂さ晴らしに叫んでいる。日本でも韓国でもまったく同じ声が存在する。
軍備増強を促す好戦的動きに揺さぶられたら、両国の未来は破壊される。異様な相互排除関係と誹謗中傷が続くことに慣れると、その過ちは我々を脅かす弊害として現れかねない。両国にはいまや知日・知韓の政治家が皆無に等しい。
ならば、平等な隣人関係に立ち、新たな外交畑を耕せる「ぶれない対話チャネル」を設ける叡智があってほしいものだ。
どんな状況でも、数十年間続いた青少年交流を打ち切る無謀な大人たちの身勝手さがあってはならない。交流を準備した子どもたちは一生、心の傷を負うようになる。むしろ、日韓各地に散在するかつての植民地や戦争の爪痕の「過去」を活用して「未来の人類史」を導く世界の平和リーダーの育成に両国が力を合わせるのはどうだろう。
幸いに、日韓とも市民交流を通して信頼関係を築くことが未来への在り方だと連帯する市民層の声も高まっている。韓半島と日本の宿命的隣人関係。サン・テグジュペリの『星の王子さま』が示唆するように、本当に大事なものを遠くに探し求める愚行より、最も近くにそれを見出し、世界的文化大国として認め合える協力関係を構築することが賢明である。
いがみ合うことで傷つけることに、そろそろ終止符を打つ時期ではなかろうか。
|