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  4. 2019.05.19
表現者の生活支えて文化を守れ
舞台人の収入は途絶

仕事がすべてキャンセル
 政府の後手後手の対応で新型コロナ感染は拡大し、緊急事態宣言が出され、休業要請により中小企業、サービス業、飲食店といった様々な職種が倒産の危機にさらされている。

 私たち芸人、劇団員、音楽家といった、いわゆるフリーターは収入の道が閉ざされてしまった。飲食店でアルバイトしようにもその飲食店も休業を余儀なくされている。

 頼みの綱だった30万円の給付金は一律10万円になり、いつ振り込まれるかもわからない。都内の寄席や地方の会場も閉鎖され我々の高座がすべて消えた。せめてもの収入になればと若手の宝井梅湯さんは張り扇製作を始めたが、竹や和紙の販売店が休業、材料が手に入らなくなってしまった。

 私も夏までの仕事がすべてキャンセルとなり呆然としていた時、日頃から応援してくれている知人からメールが。「大変不躾な質問ですが、『おまんまの食い上げ』状態になっていませんか。そろそろ心配です」「はい、仕事がすべて延期やキャンセルで、かすみを食べて生きてます、講釈師名を香織からかすみに変えねばなりません。無能な政府を持つと国民は悲劇ですね。もっと早く安倍政権にはお引き取りいただくべきでした」と返信した。

 そしたら、なんとお仲間数人に声かけてくれ家賃に相当する額をカンパしてくれた。感謝感激、高座に復帰の際には招待券をたくさん送らせてもらおう。

 5月1日から申請を受け付け始めた継続化給付金や、最も早い緊急小口資金の借入も申請、かすみを食べてでも生き抜いて今度の体験を講談に活かしたい。

各国の対応と日本の現実
 それにしてもなぜ日本の緊急事態宣言は他国のように補償とセットではないのだろうか?アメリカのカルフォルニア州では失業者に週10万円、月40万円も補償しているそうだ。アジアでは香港、韓国、台湾も補償とセット。ヨーロッパではフランス、スペインは休業補償全額、イギリスではお店の従業員の給与が3カ月8割補償。ドイツに至っては「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要」とまずは3カ月分60万円振り込んだ。

 そのドイツのメルケル首相は3月18日、テレビを通じ「開かれた民主主義のもとでは、政治において下される決定の透明性を確保し、説明を尽くすことが必要です。私たちの取組について、できるだけ説得力ある形でその根拠を説明し、発信し、理解してもらえるようにするのです。全ての市民の皆さんが、ご自身の課題と捉えてくだされば、この課題は必ずや克服できると私は固く信じています。ですから申し上げます。事態は深刻です。皆さんも深刻に捉えていただきたい。ドイツ統一、いや、第二次世界大戦以来、我が国における社会全体の結束した行動が、ここまで試された試練はありませんでした」と自身の言葉を紡ぎだし、国民の心をつかんでいる。

アベ首相の資質を問う
 安倍首相の記者会見はというと、透明のプロンプターに側近の今井補佐官が書いた原稿が出てきて、それを読んでいるだけ、というのが今回白日の下にさらされた。お客さんから見たら透明のプロンプター。新作を語る時にあのプロンプターを借用したいものだ。非常時にはリーダーの資質が問われる。

 同じ敗戦国でありながらドイツと日本は雲泥の差、戦争の責任を追い続ける政府と戦争を正当化し続けようとする政府の違いだろうか。

 その安倍首相、感染者数が減っているにも関わらず4月30日に「緊急事態宣言を大方一カ月延長する」と発言。解除の目安となる数字は一向に出ない。学校再開を心待ちしている子どもや保護者たち、生活がかかっているすべての国民が祈るような気持ちで外出を自粛し耐えていたのにあまりにも無常の仕打ち。これではストレスが増え免疫力が下がるばかり。

 さすがにまずいと思ったのか、安倍首相は5月6日、ネット番組に出演し質問にも答えた。そして「緊急事態宣言解除の条件は?」と問われて「専門家委員会に決めてもらう」とのたまった。

 講談にはリーダーの資質を問う演目がたくさんある。安倍さんはYouTubeでもいいからぜひ講談を聞くべきです。 


神田香織(かんだかおり)
 福島県いわき市生まれ。県立磐城女子高卒業後、東京演劇アンサンブル、渡辺プロダクションドラマ部を経て1980年神田山陽門下生となる。二ツ目以降、ジャズ講談や一人芝居の要素を取り入れた神田香織独自の講談を次々発表、講談の新境地を切り開く。86年国立演芸場にて『はだしのゲン』発表で日本雑学大賞受賞、88年芝ABCホールにて『はだしのゲン2』発表、89年真打昇進、2002年『チェルノブイリの祈り』発表。2012年第24回多田謡子反権力人権賞受賞など社会的に活躍中。
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