本紙11月20日付3面に掲載された水道法改定案だけはなく、臨時国会では漁業法改定案がすでに審議入りしている。これは農業同様、成長産業化の美名の下、漁協解体や沿岸漁業の株式会社化の端緒となるものだ。それはまた、国民の安全で安定した食糧確保にも背を向ける許してはならないもの。その問題点を見てみよう。
育んできた漁業権
日本人の貴重なたんぱく源を提供してきた漁業。その96%を占めるのは家族で支えるなど、小規模な沿岸漁業者である。その協同組合である漁協(漁業協同組合)が漁業権を持ち、資源管理や海、浜の管理を共同で民主的に担ってきた。
漁業権は、形こそ担当官庁の認可だが、漁業者が営々と積み上げてきた権利である。
これは、戦前資産家が漁業権を買い占め、漁師が低賃金で酷使された教訓に基づいて築かれてきたものだ。
それを安倍政権は漁協の頭越しに漁業権を株式会社に優先付与し、漁場や漁業権を審査する海の議会、海区漁業調整委員会を公選制から知事による任命制とするなどの漁業法の改悪を図る。
安倍政権は言う。漁獲高が減少しており、高齢化で人手不足なのだから企業参入で問題を解決し、漁業は農業同様、成長産業化すると。しかし、自由化によって、海外からの安い魚が大量に輸入されて漁業が圧迫された結果、国内の漁獲高が減少していることには触れようとしない。
自らの政策で漁業が衰退した現状を前にあたかも救世主のようにふるまい、漁業権を株式会社に売り渡そうとする。現在でも、マルハニチロなどの大企業も漁協に入ってルールを守り協力しあっているにもかかわらずだ。
投資対象の海に
この背景には規制改革がある。すべてのものを金儲けの対象にしようと画策する。農業の次は林業と漁業だと規制改革推進会議の中に、水産ワーキンググループを作ったのは昨年9月。
「農協をねじ伏せ、掟破りの安倍官邸介入人事で事務次官のポストをもぎ取った」と言われる奥原正明事務次官(当時) の指揮の下、彼の掲げる「儲かる林業」を目指す経営大規模化と、「水産業への企業参入の促進」という既定路線が急速に動く。
ワーキンググループに招集された委員は水産に関して素人であり、単なる権威付けのための仕組み。
林業については今年の6月、 森林経営管理法が成立。森林所有者の委託を受けて伐採等を実施する経営管理権が自治体に付与された。自治体がきちんと管理されていない森林と判断すれば、間伐等ができることになり、「意欲と能力のある」林業経営者に林業経営を再委託できるシステムがつくられた。まさに電光石火の制度変更だった。
そして、今回の70年ぶりの漁業法改定へと続く。漁業権は沖合5`b程度までに設定されている。そこで金儲けの対象になると注目されるのは養殖業だ。
しかし、これまで一家総出で海や浜の環境を守り続けてきた協同組合に入らない企業が養殖等に参入すればどうなるか。
現在の企業は四半期ごとの業績にしのぎを削る株主優先の経営だ。当然、長期的な思考はなく、コスト削減と利潤追求にまい進する。
そこに海とともに生きてきた協同組合の思想はない。儲からなければ撤退するし、株の売買を通して外国資本に沿岸漁業が支配される。豊穣の海が投資対象の商品と化す。
事実、堤未果氏の『日本が売られる』によると、オーストラリアの漁獲量の4割、ニュージーランドでは6割、アイスランドは98%が証券化され、経済危機の際に外国資本に買い上げられてしまったという。
豊饒の海を守る
日本でも2003年、大分県と高知県でハマチ養殖に参入したノルウェー企業がある。その世界最大のサーモン養殖企業の日本法人が、外資系企業として初めて日本の養殖業に参入した。
地元漁協は地元の養殖業を活性化させると期待して受け入れた。その条件は地元との競合を避けるために生産物はすべて輸出すること、地元に加工工場を建設して雇用機会を創出することだった。
しかし、参入から5年間一度も黒字を計上できず、そのために海外の株主が問題視した。
そのことによって、2008年に突如撤退。この間、一度も海外に輸出せず、すべて国内市場に販売して相場を下落させたため、近隣の養殖業者から不評をかい、加工工場も建設しなかった。
これが企業の論理であろう。 村井嘉浩宮城県知事が漁業者の反対を押し切り、漁業ビジネスに詳しい経営コンサルタントが推進した宮城県水産特区事業の現実も似たり寄ったりである。
しかし、これらの問題については無視する。まさに「いまだけ、カネだけ、自分だけ」の世界である。
そのツケは漁業者と消費者に完全に転嫁される。カネさえ出せば、いつでもどこからでも魚や農産物が買える時代ではなくなっている。BSE問題で牛丼が消えたのをもう忘れたのだろうか。
日本の海を持続可能な資源として守ってきた漁協の存続を危機的状況に追い込み、企業の儲けの道具にしてしまう漁業法改悪を許すわけにはいかない。
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