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2019.03.12
あれから9年目 深刻な事態続く
東電の拒否により機能しないADR

甲状腺がんの増加 
 福島県が県内のすべての18歳以下の子ども約40万人を対象に実施してきた甲状腺検査で、これまでがんが判明したものは200人を超えた。

 「子どもの場合、がんと診断されるのはデメリットがある」という理由で超音波検査を縮小しようとする動きがある。しかし、もともとこの検査は保護者などの同意がないと実施していない。放置されたらがんの転移の恐れも、他の深刻な病気の発生もありうる。

 原発事故後に国が甲状腺の被ばく線量を実測したのは1080人に過ぎず、大部分の子どもたちは被曝線量が分からないままだ。放射性ヨウ素の半減期は8日と短いため、今からでは測定できない。甲状腺がんの発症は原発事故によって放散された放射性ヨウ素のためとは限らないなどと主張する人もいるが、事故が発生して以降に生まれた子どもには甲状腺がんの発症が見られず、原因は明白だ。

無罪主張の責任者
 原発事故の刑事裁判で、東電は事故の最高責任者3人が無罪を主張している。 全町避難を強いられた浪江町の町民約1万6千人の代理人となって5年前に町が裁判外紛争解決手続き(ADR)で賠償金を申し立てたものの、東電は和解案の受託を拒否した。浪江町の住民約100人は昨年11月、福島地裁に損害賠償を求めて提訴した。

 裁判は時間も費用もかかる。迅速な賠償のために国によって設けられたはずのADRは東電の拒否で機能しないケースが多くなっている。他方で東電は賠償と廃炉費用の捻出を名目に、柏崎刈羽原発の再稼働や、配下の日本原電で40年を超えた東海原発の再稼働を目指す。

 経団連会長の中西宏明日立会長は福島原発の建造と事故には何の責任もないかの顔をして、安倍晋三首相と原発輸出を成長戦略の柱と位置づけ、英国等への輸出に励んだが、完全に破綻するや恥ずかしげもなく「再稼働はどんどんやるべきだ」と宣う。

 英国への輸出が立ち消えになった主因は、洋上風力発電が拡充され、電力料金が下がっているのと対照的に、原発コストが跳ね上がっていることによる。

 洋上風力発電設備は英国が17年時点で684万kw、ドイツ536万kw、デンマーク127万kwなのに対し、日本は2万kwに過ぎない。しかも福島沖の実証試験では三菱製はほとんど動かないまま撤去した。残りの2基を造った日立も風車の製造から撤退するという。

 目先の利潤ばかりを追求する独占資本は、肝心な分野の国際競争には敗れ、世界のすう勢にかくも逆行しているのだ。