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殺処分13万頭を超える |
東京農業大学名誉教授 長澤 真史 |
日本で26年ぶりの発生
昨年9月9日、岐阜県において26年ぶりの豚コレラの発生が確認された。 豚コレラについて、正確を期すため農林水産省のHPよりみておこう。
まず、豚コレラは豚コレラウイルスにより豚、イノシシの熱性伝染病で、強い伝染力と高い致死率が特徴。感染豚は唾液、涙、糞尿中にウイルスを排出し、感染豚や汚染物品等との接触等により感染が拡大、治療法は無い。
発生した場合の家畜業界への影響が甚大であることから、家畜伝染病予防法の中で家畜伝染病に指定、世界各国に分布しているが、北米、オーストリア、スウェーデン等では清浄化を達成しており、そして人体に影響はなく、食べても問題はないという。
ただし、わが国では生ワクチンが開発され、1969年よりワクチンの使用が始まり、緊急ワクチン接種で効果を発揮している。実際、1992年に九州で発生し、豚へのワクチン接種を行い、2006年4月1日以降収束して中止するに至っている。そして「豚コレラ清浄国」となったが、清浄国への復帰には実に16年の歳月を要している。
国際獣疫事務局(OIE)という国際機関によって、清浄国であれば輸出が認められる。感染した場合、当該農場の飼養豚は殺処分され、「飼養衛生管理基準」に則り、立ち入り制限、防護柵の設置、消毒等が行われる。
今回の発生要因
今回の豚コレラの発生について、ウイルスの侵入経路と伝播に関して農林水産省の「拡大豚コレラ疫学調査チーム検討会」では、「原因ウイルスは過去に国内で流行していたウイルスとは異なり、近年、中国やモンゴル等で分離されたウイルスと近縁であった」としている。つまり、近隣アジア諸国からウイルスが侵入した可能性が高いということである。
9月の発生であるが、8月上旬には侵入しており、海外からの旅行者がハム・ソーセージなど(非加熱の豚由来畜産物)を持ち込んだ可能性があり、加工畜産物の場合、旅行者の手荷物や商業用貨物での輸入は禁止されている。
しかし、輸入検査を受けることは自己申告方式である。旅行者の手荷物や国際小荷物というかたちで違法に持ち込まれた食品が家庭用ゴミとして廃棄され、さらにバーベキューの後に廃棄されたものを野生イノシシが食して感染した可能性は否定できないとしている。
豚コレラより恐ろしいアフリカ豚コレラが中国等で蔓延して、甚大な被害を出しているが、このアフリカ豚コレラウイルスの遺伝子について、昨年10月19日に豚肉ソーセージが千歳空港で、11月9日自家製餃子が羽田空港で、11月22日豚肉ソーセージが成田空港で、それぞれ中国から持ち込まれた携帯品より検出されている。
アフリカ豚コレラは、ワクチンは無く、侵入して感染すれば、わが国の養豚業は壊滅的な打撃を受けるとされている。空港、港湾等での検疫探知犬の配置など水際対策が極めて重要になっている。
農水官僚出身の篠原孝衆院議員によれば、持ち込み禁止食べ物の探知を行う検疫探知犬は、全国で40頭、羽田空港では5頭のみで、麻薬犬の130頭、警察犬の1300頭に比べて絶対的に不足しているという。
これからの防疫体制
今回のウイルスが海外から侵入した可能性が高く、しかも危険なアフリカ豚コレラの侵入が目前に迫りつつあり、あまり議論に出てこない空港や港湾での水際対策の強化も看過できないであろう。
こうして侵入した豚コレラウイルスは、①感染したイノシシ等の野生動物との接触、②他の感染農場からの人や車両、③汚染した畜産関連の資材、④豚コレラ発生国からの人や物、⑤感染豚肉由来の加熱不十分な肉類による伝播が想定され、飼養衛生管理基準の遵守とともに野生イノシシのエサに混ぜたワクチンの経口投与で撲滅を図る方法がとられている。
経口ワクチン散布地域で捕獲された野生イノシシをチェックしているが、蔓延は収まっていない。9月14日現在、岐阜、愛知、三重、福井、埼玉の5県、43例の発生が確認され、殺処分は13万頭以上に及ぶ。なかには、愛知県の畜産試験場でも発生し、大村秀章愛知県知事は「県内でも最高レベルの防疫体制を敷いてきた。驚きと衝撃を禁じ得ない」と語っているという。守る最後の拠点が突破されたのである。
現時点では、養豚の大産地である九州地域には及んでいないが、関東地域にまで蔓延し、政府の対策本部も「関東地域に広がってステージが変わった。できるだけ早く(ワクチン接種も含めて)対応方針を示すため頻繁に省内で議論を行う」とし、関係する県の知事も新たに豚へのワクチン接種を求めるとしている。
さらに、9月17日、農林水産省はお隣の韓国で「アフリカ豚コレラ」が発生したと公表し、状況はいよいよ厳しい事態に至っている。ワクチン接種をめぐる問題について次にみていこう。
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