新社会党
  1. トップ
  2. 週刊新社会
  3. 環境
  4. 2020.05.19
"危機"に学ばない効率主義
コロナ渦でも都立病院独法化 
ジャーナリスト 北 健一

ライトアップ
 「世界各地では医療従事者に対して、一定の時間に拍手をみんなで贈るというようなキャンペーンなども行われている。東京都でも、先日も(都庁などの)ライトアップによりブルーを示すことによって、医療従事者の皆さんへのエールを送っているところです」記者会見で語ったのは、知事選を7月5日に控えた小池百合子都知事だ。

 後手後手が目立つ安倍政権との対比で、大阪府の吉村洋文知事とともに「やってる感」を振りまく小池都知事は、医療従事者に寄り添う演出にも余念がない。

 だが、実際にやっていることはどうか。小池都政は3月31日、8つの都立病院と6つの公社病院を、2022年度内を目途に地方独立行政法人(独法)にする方針を決めた。独法というのは、国や自治体が直接運営する公営と株式会社が運営する民営との中間的な経営形態といえる。

知事室でのレク
 何のために病院を独法化するのか。19年6月19日、知事室で東京都病院経営本部の幹部から小池知事にレクが行われた。レク資料には「都の財政負担を軽減、独法化による効果を生かし病院のワイズスペンディングを実現」と記されていた。ワイズスペンディングとは、「賢い支出」を意味する経済学者ケインズの言葉だ。

 都幹部が「ワイズ」ではない(ムダが多い)と小池知事に吹き込んだ都立病院の大切さがはっきりしたのが、新型コロナ感染症対応だった。もともと備えていた感染症病棟をフル稼働させて感染患者を受け入れたばかりではなく、小池知事の要請に応じて次々と感染者を受け入れるためのベッドを増やしたからだ。

大阪のモデル
 大阪では2006年、5つの府立病院が独法化され大阪府立病院機構の下に置かれた。公立病院独法化の「成功モデル」ともいわれ、東京都も参考にしている。

 大阪での独法化が「成功例」とされたのは、独法化初年度に17・2億円もの収支改善に成功したことが大きいが、その理由は人件費のカットだった。効率化やアウトソーシング(外部委託)によって事務部門で76人減らしたのが大きいが、賃金カーブをフラット化した独立行政法人国立病院機構の給与表に合わせ、看護師ら職員の賃金が勤続年数によって上がるのを抑えたのも見逃せない。

 病院機構の内部文書には、「給与比率は前年より下回ること」「自治体病院は給与比率50%を目指すが合言葉。国立は40%台になっている」と明記されている。独法化による効率的経営の中心は人件費カットなのだ。昨年には、労働基準監督署の指摘で総額約12億円もの残業代未払いが発覚した。

大手監査法人が登場
 府立病院は、高度専門医療への重点化と効率的・効果的な医療サービスの提供を基本方針に掲げ医業収入を増やしていった。独法化後、大阪城を見下ろす13階建て(地下2階)に建て替えられた、がんセンターでは7500円の個室代が1万5000円に。セカンドオピニオン料、母子センターでの分娩料などさまざまな料金も上がった。結果、患者1人1日の入院で病院が得る入院単価は直営最後の年の3万7116円から18年度には6万5743円と倍増した。

 「独法化への移行を準備する業務」は3月18日、あずさ監査法人が落札した。同法人は、国鉄、郵政の民営化支援や独法化支援に実績をもつ反面、オリンパス事件では巨額の粉飾を見逃し続け、金融庁から業務改善命令を受けたこともある。

橋下元知事のツイート
 成功例とされた大阪でも、独法化された府立病院の現場は医療資材の不足に悩む。4月3日、橋下徹元府知事はこうツイートした。「僕が今更言うのもおかしいところですが……徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府立市立病院など。そこは……見直しをよろしくお願いします」 ほんま、何を今更。怒りで吐きそう……。大阪の医療現場からは怨嗟の声がもれてくる。

 4月28日、都立病院で働く人たちの組合、都庁職病院支部と衛生局支部は感染症流行が沈静化するまで独法化に向けた準備を凍結するよう、都病院経営本部に要請した。都民の命を日夜守る人たちの声に、小池知事はまだ、耳を傾けようとはしていない。