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  4. 2020.06.02
規制緩和と多国籍企業
ネオニコ農薬が生態系破壊  
ルポライター 高木和朗

『沈黙の春』の再来か
 農薬による生態系破壊の危険性をレイチェル・カーソンは『沈黙の春』で警告した。この警告はますます現実味を帯びている。ネオニコチノイド系農薬(以後ネオニコ農薬)が生態系の破壊をもたらしているからだ。

    
 
 ではネオニコ農薬とはどのようなものかと言えば、水溶性が高い殺虫剤で、植物への効果の持続性が長く、したがって薬剤散布の回数軽減がはかれる、人体への安全性が高いなどの特性を持つとされている。

 ところが安全性を疑問視する事例が報告され、ネオニコ農薬の危険性が指摘されているのだ。

著しい漁獲量の低下
 島根県の宍道湖は全国でも屈指のヤマトシジミの漁獲量を誇り、ウナギやワカサギも取れる。それが1990年代ごろより著しく低下を示すようになった。

 「宍道湖はワカサギがとれる湖の南限なんです。けど1993年ごろには年間120トンほどあった漁獲量が2004年ごろには22トンにまで低下した。ウナギも同じく年間四十数トンあった漁獲量が10トン前後まで落ち込み、この状態は現在も続いてます。漁獲量減少はネオニコ農薬の使用が原因ではないかともいわれてます」。

 宍道湖漁協職員の桑原正樹さんは宍道湖の現状をこう説明する。

 実際ウナギ等の減少について90年代後半から水質調査をしていた産業技術総合研究所は2019年11月、衝撃的な調査結果を報告した。

 つまり1992年4月農水省に登録され、ネオニコ農薬の使用が許可された時期と同じくして大量発生していたオオユスリカが急減した。これをエサにしているウナギやワカサギの減少も同時期に始まった。フナムシなどの湖底生物も2016年にはまったく見られなくなり、シジミの減少も確認された。

 この報告はネオニコ農薬と生物との因果関係を指摘した。

 ネオニコ農薬の被害は魚類だけでなく昆虫などにも発生している。欧米では2000年代からミツバチが女王蜂や幼虫を残して突然失踪し、群れが維持できない「蜂群崩壊症候群」が発生している。あるいは穀物を捕食していた小鳥の死骸が見つかるなどが伝えられている。あるイチゴ生産者はミツバチ失踪の原因を筆者にこう述べた。

 「私もネオニコ農薬を使っていたが、イチゴ栽培にミツバチは欠かせないので今はこれは使用してない。ミツバチ減少は世代交代の不可能が原因。

 つまりこの農薬は生物の神経伝達経路を遮断し、脳神経の発達に影響を与えるのです。したがって、花粉や蜜を通して農薬を吸収したミツバチの幼虫は成虫前に死滅するので世代交代がすすまない。だから私らはこの農薬を潜水艦農薬とも言っています。知らないうちにじわじわと効果が現れるからです」。

 ネオニコ農薬は人体も脅かしている。正常な神経回路の形成を阻害しているからだ。とくに発達途上の乳幼児は毒物から脳内を守る働きが不十分なため毒物が脳内に蓄積されやすいことから自閉症、多動性障害などの原因になっているといわれている。

農薬対策の各国の現状
 このようにネオニコ農薬は食物連鎖等を通して人体を含むさまざまな生物に影響を及ぼし生態系破壊要因になっている。

 そのためフランスは2018年9月、ネオニコ農薬の使用を禁止した。オランダも2014年、使用禁止を議会で議決した。米国はハチへの危険性を警告するラベル表示を地方政府に義務付けた。カナダ、イタリア、台湾、韓国も品目別ながら規制ないし禁止措置をとった。それにもかかわらず日本政府は規制どころか使用を推進さえしている。

 「規制がゆるやかなのは、農水省はネオニコ農薬の毒性は立証されておらず、確証が得られる期間中は暫定措置として認めるという立場をとっているんです」。

 ネオニコ農薬規制措置を求める「アクト・ビヨンド・トラスト」の八木晴花さんは農水省の対応の鈍さをこう批判し、前出のイチゴ生産者も、「規制緩和の裏には多国籍企業とのからみもある。我が国の農薬は三菱モンサントや住友化学、バイエルなどが独占してるからです」。

 現在我が国では、「アドマイヤー」「モスピラン」「ダントツ」などの商品名でネオニコ農薬が販売されている。農薬は、農作物の品質向上や安定供給に資するものとされた。ところが、今や人体や生態系破壊の原因になっている。

 自然破壊がさまざまな変異をもたらし、やがて人間の生命を脅かしている点で目下世界が恐怖に陥っている新型コロナウイルスと通底するものがある。