政府は昨年12月24日、2011年度予算案を閣議決定した。一般会計総額92兆4116億円と過去最大規模。うち税収は40兆9270億円、「埋蔵金」を含む税外収入7兆1866億円、新規国債発行44兆2980億円と2年続けて借金が税収を上回る赤字予算≠ニなった。
編成の主導権は完全に財務省に戻ったものの、国会は衆参ねじれ、衆院与党は3分の2議席に届かず、予算関連法案の3月末成立は絶望視され、審議の成り行きでは解散含みの政界再編もありうる情勢だ。
 |
予算案について、菅首相は「元気な日本を復活させるための予算」と位置づけ、重点策を雇用(労働者)と成長(企業)においた。だが、予算編成の基本は「企業あっての労働者」に貫かれている。
その指針となっているのが、6月閣議決定の「新成長戦略」と「財政運営戦略」である。もっとも、同じ成長戦略でも、菅氏が鳩山政権の国家戦略担当相としてまとめた「新成長戦略」が環境・健康・観光重点の「第三の道」であったのに対し、閣議決定版は規制緩和・構造改革に回帰した「第二の道」が政策のベースだ。
一方、「財政運営戦略」は新規国債発行額の44・3兆円以下への抑制、2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するなど、カナダ・トロントG20での国際公約がベースだ。
この財政再建策は、消費税増税を必須条件とする財務省の基本方針に沿ったもの。菅首相が「民主党政権になって初めて一から作った予算」と鳩山予算との違いを強調する意味がここにある。
マスコミには11年予算案は「場当たり」「バラマキ」「人気取り」と不評だが、全くの的外れ。むしろ企業べったり予算∞消費税増税予告予算∞マニフェスト崩壊予算≠ニいうのが正しい。
「新成長戦略」の主事業は道路・港湾・省エネ自動車・科学技術分野が中心。何よりも法人税率の5%引き下げが企業優遇を象徴している。
税収不足の折、法人税減税だけで8076億円の税収減。その代替財源として減価償却制度の見直しなど政策減税の廃止・縮小を差し引いても、企業の実質負担減は4190億円になる。
消費税増税は国の借金と社会保障費の二大支出増を受けて、予告というより恫喝めいてきた。国債発行額は現発行額に財投債、借換債を合わせると169兆5943億円、その92%を民間金融機関が購入する。
11年度末の国債発行残高は667兆5943億円でGDP比138%、そして長期債務残高は891兆円、GDP比で184%に上る見通しだ。一般会計の31・1%を占める社会保障費は28兆7079億円。前年度より5・3%増えた。
医療・介護・年金など人口の高齢化に伴う支出増で、財政圧迫の最大要因と標的視されている。菅首相が自らのリーダーシップで決めたと胸を張った基礎年金国庫負担2分の1維持。
その財源2兆4897億円を鉄道建設・運輸施設整備支援機構や財政投融資特別会計、外国為替資金特別会計の剰余金などからかき集めたが、限りある非常的手段だ。
そもそも09年の年金改革に従い厚生年金保険料は10月から労使が標準報酬月額を16・058%から16・412%に引き上げが決まっており、まさか国庫負担分だけ食い逃げするわけにはいかなっただけだ。
社会保障費は将来にわたって確実に増え続ける。そこで政府は自己負担論を原則に、消費税の社会保障目的税化へ2012年度の税制改正へ増税論の封印を解く。
さて、「生活第一」が売り看板だった民主党マニフェストは崩壊した。農家戸別所得補償は公約通り畑作にも拡大するが、内実は貿易自由化の代償に変質し、永続性はない。子ども手当は一人当り中学生まで月2万6000円支給を断念。公立小中学校の35人学級制は小学1年生に限定、高速道路の無償化は前年度並みに修正された。
|