これからのニッポンをどうするか―。テレビが低俗番組を垂れ流した正月、新聞各紙の論説はこのテーマ一色に染まった。
情報を独占し、人々に与える支配エリートのこの問いに対する答えは足並みを揃えてほぼ固まり、それが為政者の声となって発信されている。
これに対し、私たちはどうなるのかと答えを待つ受身から、どうするかと積極的な対抗軸を探りたい。
今年のキーワードは「開国」。菅首相は1月5日の閣議で、「平成の開国を断固やる」と決意を語った。これは昨年10月の所信表明演説「国を開き未来を拓く主体的な外交の展開」の有言実行宣言である。
課題は二つ。日米同盟の深化を基軸とする「世界の繁栄と安定」、環太平洋連携協定(TPP)への参加だ。軍事と経済2つのパワー一体の「開国」論だ。
いわば、自民党政権から引き継がれた新帝国主義宣言である。背景に国家社会の停滞がある。
20年間続く低成長、内需不振とデフレ、世界27位に落ちた競争力、GDPも中国に追いつかれた。少子高齢化で増える社会保障費、ブレーキのかからない財政危機。若者の失業と高齢者の孤独死。12年連続の自殺者3万人超えと発作的な殺人。
1年4カ月前に政権交代を実現したものの、民主党政権は政局ゲームで混迷し、政治的な無気力と虚脱感が漂う。沈むニッポン、国家は存亡の危機にある―これが支配エリートのニッポン診断だ。
だからこそ「開国」なのだ。グローバル経済を生き抜くために、内向きから外向きへ転じるように。少子化の中の成長、低成長でも不幸にならないモデルの探求。それには中国やインドなど新興国の成長を取り込む以外にない。その舞台装置がTPPへの参加だ。
TPP参加によって犠牲を被る農業は、減反政策や高関税、農協依存を止めて企業化し、「開国」に備えるべきだ―支配エリートの経済的処方箋だ。
安全保障の「開国」は「専守防衛」を「動的防衛力」に転換した「新防衛大綱」に明示された。新大綱は米国の4年ごとの国防政策見直し(QDR)に対応した安保政策。
米国に追随し、集団的自衛権に道を開く新大綱は日米同盟深化の証だ。軍事力を背景にしたTPPへの参加。アジアとの共存は危ういパワーゲームを伴う―支配エリートの安保政策だ。
経済と軍事一体の「開国」のために、財政再建と政治の立て直しは喫緊の課題。財政は企業の利益のために使われるべきで、社会保障は国民の自己負担によって賄われるべきだ。こうした考えに基づいて、消費税増税が必達課題となった。
政治の立て直しは衆参ねじれの解消が当面の課題。それには参議院廃止へ憲法改正、衆参同日選、民自大連立の3つの選択肢がある。
なかでも、「永田町ビッグバン」としての大連立が現実味を帯びている。その条件整備として民主党マニフェストの白紙撤回・再定義、小沢一郎氏の政倫審招致、内閣改造が取り沙汰されている―支配エリートの政治的処方箋だ。
だが、現在の病んだ社会、沈むニッポンを招来した原因の一つに日本と世界の労働者運動の衰退がある。この立場から、多国籍企業によるグローバル経済と自由貿易論を問い直し、「労働者の雇用と賃金第一」「福祉と生活優先」の社会を国境を越えてつくり出していくこと。この道以外にこの混迷を脱する道はなさそうだ。
そのために運動の思想を再構築し、その担い手を足元から育てることが求められている。
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