チュニジアに始まった北アフリカ・中東における民主化ドミノは、エジプトのムバラク政権を倒し、リビア、イエメン、バーレーン、モロッコ、アルジェリア、スーダン、オマーン、ヨルダン、レバノン、シリア、イラン11カ国に波及している。
その中で目下最大の焦点は、内戦と分裂の瀬戸際にあるリビアだ。この民主化の津波が、専制君主制の牙城サウジアラビアを呑み込むかどうか。そうなれば中東ばかりか、世界の政治地図を塗り替え、米国一極支配のポスト冷戦期は終わりを告げることになるだろう。
憲法もなく議会・政党もなく、直接民主主義制の名の下にカダフィ大佐による独裁体制が40年間続いたリビア。エジプト政変から5日、北東部のベンガジで始まった民衆デモが一気に地中海沿岸の主要都市に広がり、首都トリポリの攻防戦が刻々と近づいている。
カダフィ大佐は2月18日以降、度々演説を行い「殉教者として死ぬ」ことを宣言し、支持勢力に徹底抗戦を呼びかけた。傭兵と治安部隊が武力を行使し、多数の死者をだしている。
リビアは50以上の部族が割拠するモザイク国家。カダフィ体制を巡って分裂、閣僚・軍隊から反カダフィに寝返る者が続出した。
反カダフィ派は、その「受け皿」構想に見られるように、政綱的に一枚岩ではない。反カダフィ派が制圧した東部地域では、指導原理「緑の書」に代わりコーランが、緑一色の国旗に代わり王制時代の3色旗(赤、黒、緑)が掲げられた。カダフィ政権の武力行使を機に、米国、EU、国連はカダフィ包囲で足並を揃えた。米国は反体制派への武力援助と介入の機をうかがっている。
米国が最も恐れるのは、民主化ドミノが反米に結果することだ。その中東政策はイスラエルを柱に、エジプト、サウジアラビアなどを支柱としてきた。イスラエルと平和条約を締結しているエジプトは軍政の下、憲法改正による民主化に踏み出した。大統領選と国会議員選挙の結果次第で中東の政治地図は変わる。絶対王政のサウジアラビアも孤立を深めている。
米国の右手に自由と民主主義、左手に専制・独裁の双頭外交が過去の遺物となる日は近い。
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