地震・津波・原発震災が発生する前には政治の最大テーマの一つであった沖縄問題が、ここにきて大きく動いた。5月11日、米上院軍事委員会のレビン委員長(民主)とマケイン共和党筆頭委員、ウェブ民主党上院議員の3人が米軍普天間基地の辺野古移設計画は「非現実的で、機能せず、費用負担もできない」として嘉手納空軍基地への統合案を盛り込んだ「東アジア軍事基地計画の再検討」を国防総省に提出した。
何事も米国次第の日本政府は、正式提案のない限り見直しはしないと静観する構えだ。だが、普天間基地移転費の水増しや県外移設をめぐるいわゆる「普天間密約」がウィキリークスによって次々とすっぱ抜かれ、日米同盟の積年の腐食の構造が一挙に明るみに出た。日本の政治も政権交代にとどまらない革命的な「復興」を迫られている。
米国の防衛予算編成に権限をもつ軍事委員会。その民主、共和両党の重鎮が辺野古移設計画を「非現実的」と断定した意味は大きい。辺野古を抱える稲嶺進名護市長は「歓迎」しながらも日本政府の同調を促したが、統合先に名指しされた嘉手納町民は暴動も辞さないと猛烈に反発している。
嘉手納統合案は1996年以来何度も浮上したが、住民運動が断念させてきた。
早朝から深夜まで飛行機の爆音による基地被害は、忍耐の限界を超え、第3次爆音差し止め訴訟に2万2058人、7489世帯が原告団に名を連ねている。06年の在日米軍再編合意が遅々として進まず、費用負担ばかりが膨張するなか、米国内にも在沖海兵隊の撤退論をはじめ種々のアイデアが飛び交う。
リーマンショックによる財政負担を含め米国の財政赤字は毎年1兆ドル(80兆円)規模、オバマ大統領は国防費32兆円の削減を打ち出した。そうした財政事情が辺野古移設計画の断念を後押ししたが、同じ財政事情を抱えながら毎年2000億円近い思いやり予算を米国に貢ぐ日本政府の方がむしろ辺野古移設計画にこだわる図は実に奇妙だ。
5月7日には北沢防衛相が沖縄を訪れ、会談した仲井真県知事から普天間基地の県外移設を念押しされて膠着状態はびくともしないことを見せつけられた矢先の米国の動きだった。
今に続く密約外交
沖縄問題は大事から小事まで「密約」が外交の隙間を埋めている。政権交代の以前も以後も、自民党も民主党も「密約」の当事者だ。振り付け役は、日米同盟を聖域視する外務・防衛・財務の官僚である。
在沖海兵隊のグアム移転費の水増しは、米側が日本の負担率を低く見せるために、移転費総額92億ドルに道路建設費10億ドルを上乗せした問題だ。移転人数も実員1万3000人を1万8000人と水増し、3000人の移転を8000人と偽った。
日本側の負担は28億ドルにインフラ整備費が32・9億ドル加算して総額60・9億ドル。この負担配分を取り決めたのは麻生自公政権だ。ケビン・メア米国務省日本部長の「ゆすり発言」はそのまま米国政府に突き返さなければならない。
しかも、驚くべきことにこの「水増し密約」は菅政権に引き継がれ、岡田前外相も「定数ではなく実員だ」という詭弁を弄している。そもそも、密約は国民に対する裏切りと表裏一体。
鳩山首相(当時)は普天間基地の「県外移設」を公約して政権交代を実現したのに、数カ月も経たないうちに「新たな移設先が見つからなければ辺野古への移設案に立ち戻る」との意向をクリントン米国務長官に伝えていた。という内幕を藪中外務次官(当時)がルース駐日米大使に漏らし、その始終をウィキリークスが暴露した。
さらには当時徳之島など辺野古に代わる移設先が模索されていたが、松野官房副長官(当時)は「県外移設の模索は形の上だけ」と米大使館員に伝えていた。日本側の本音が政治家と官僚を通し勝手ばらばらに米側に伝えられ、日本国民は蚊帳の外に置かれていた。
地に落ちた日本外交。異常、デタラメだ。普天間基地は米国領に撤去させよう。その政治力をつくり直すしかない。
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