石原氏が都知事を辞職し、新党結成に走り出した。彼ほどご都合主義で無責任な政治家も珍しい。右翼的な「第三極」結集も駆け引きが激しくなった。尖閣問題を始めその発言は無茶苦茶で、異様な情念だけが「暴走」している。
石原慎太郎氏は、衆参両院議員を自民党で過ごし、美濃部都政の打倒めざして75年の都知事選に立候補して落選。衆院議員に返り咲き、89年の自民党総裁選に立候補してあえなく敗北。10年後には再び都知事に担がれて当選した。
責任放棄が専門
以降、「新銀行東京」には、追加投資を含め1400億円もの税金をつぎ込んで巨額の負債を生んだが、石原氏は「経営者の責任」の一点張り。オリンピック誘致も巨額の税金を誘致費用に投入して頓挫し、2020年招致にかけると弁明しながら、「辞任」で放り出した。
極め付きは、「尖閣」だ。日中関係を滅茶苦茶にし、経済団体も「中国を刺激するな」と悲鳴をあげているのに、これも後始末をせずに逃げ出した。憂国の士を気取る彼も一皮むけば、人気取りと私利と無責任さだけ。本人は「暴走老人」と言われてご満悦だが、亀井静香氏は、「暴走もしていない。へたり込むだけだ」と喝破した。
しかし、この俗物が今や政治閉塞の打開への刺激剤として異常な関心をひく。13年前、都知事選出馬の記者会見で、中国を「シナ」呼ばわりした時は世論の厳しい批判を浴びた。
だが、石原氏の暴言への批判の声は今や小さくなり、熱烈な喝采を送る部隊は少数ながら確実に増えている。日経新聞の調査では、石原新党に「期待する」は20代で74%に上る。
そして、「新党結成」を公言してからは、「戦後進めてきた教育の破壊的改革」「憲法は改正しないで破棄」「車だって40年以上走る。現代技術を駆使した原子炉が40年でお釈迦になるか」と言いたい放題だ。
政策無視で暴走
右翼「三極」結集に向けての彼の言動は、政策などまるで無視、右翼の情念だけが暴走しているのだ。橋下維新も、政治への苛立ちの表現に過ぎないが、まだ「政策らしきもの」はある。「三極」結集の駆け引きは打算の渦で、誰にも結末は分からないし、石原氏も橋下氏も遅かれ早かれ、「へたり込む」だろう。
しかし、格差と貧困、原発事故など、生存の不安定さで窒息しそうなこの社会で、変革の展望を切り開く政治勢力が形成されない限り、情念や苛立ちの代表者は次々に登場し、自民党はそれを利用、民主党はそれに圧され分解するだろう。
東京都知事選は都政だけでなく、政治全体を左右する場となった。「護憲・脱原発・脱貧困格差」の線で一致して闘える候補者の擁立をめざして、各方面で懸命の努力がなされている。これが実現すれば、閉塞打開の大きな突破口となる。