日米など12カ国によるTPP(環太平洋経済連携協定)の協定案の審議が、衆院特別委員会で行われており、反対する行動は国会周辺をはじめ全国で取り組まれている。国際的に問題になっている「特許権」の問題にも目を向けよう。
国会論戦を含め日本社会のTPPについての関心は、農産品の課税などに集中しているが、地球上に暮らす人々のうち1%の富裕層を除く99%で構成する「国際市民社会」が懸念している最大のテーマの1つは、「医薬品へのアクセス問題」である。
利益に反比例し
TPPによってグローバル製薬企業の特許権がさらに強化されれば、これら大企業の利益が増大するのに反比例するように、途上国の人々は生存のために必要とする医薬品を手にすることが困難になっていくのである。
協定案18章(知的財産)では、「特許期間の不合理な短縮について特許権者に補償するため特許期間の調整を利用可能なものとする」「生物製剤を含む新規の医薬品の販売承認の日から少なくとも8年間、市場の保護について定めること」としている。 つまり、特許出願から販売承認までおおむね10年間かかるが、その間に「不合理な短縮」とみなされる期間があれば、その年数分は特許期間が延長されるというのである。
新薬のデータが公開されれば、安価なジェネリック薬(後発薬)を製造できるが、TPP協定が発効すれば、新薬のデータがなかなか公開されず、新しい薬の価格が下がらない恐れが高くなる。これは医療機関の窓口での患者の負担増に直結し、保険料の引き上げにもつながる。
途上国は経済的負担の少ないジェネリック薬の必要性から新薬データの早い開示を求めているが、TPP協定は途上国の意向を裏切り、国際市民社会が目ざしている流れに逆行する。開発途上国のエイズ患者たちを救うため、安価なジェネリック薬の普及が一度は実現したが、グローバル製薬会社は巻き返しを図る。
「国境なき医師団」や医療団体、患者団体などは、TPPにおける医薬品アクセス問題に強い懸念を表明してきたが、「医薬品入手の面で最悪の貿易協定として歴史に残る」(国境なき医師団)と厳しく批判している。
国際市民の一員
日本ではTPP協定の特許問題が途上国の患者に与える影響について大きく取り上げられることはあまりないが、私たちは先進国に暮らす市民の責任としてこの問題に関心を持ち、TPP協定反対・阻止の闘いの柱に加えなくてはならない。私たちの運動の質・内容が問われているのである。
TPP反対運動のシンボル的なドキュメンタリー映画『薬は誰のものか? エイズ治療薬と大企業の特許権』の短縮版ができ、完全版製作プロジェクトも始動中だ。その上映運動にも取り組みたい。
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