トランプ勝利と安倍政権の高支持率は同質の現象だ。違いは、トランプは乱暴だが米国内に反トランプ運動が高揚しているのに対し、安倍は「慎重」だが対抗運動も弱体なこと。世界を震撼させる事態は、私達には何を問うているのか。
レーガン・中曽根時代から推進された新自由主義政策は、社会に深刻な歪みをもたらした。その歪みが爆発したのがリーマンショックだ。オバマと日本の民主党の政権は、「ショック」の渦中に新自由主義政策への反省が押し出したものだ。
しかし、日米の両政権には強力な対抗戦略と民衆運動を伴わず、一方で貧困と格差は進み民衆の生活は耐え難くなった。社会変革の展望を見出せないまま、政治不信と不満は安倍政権と橋下維新的勢力を押し出した。4年後には安倍と橋本をミックスして数倍どぎつくした怪物が、米国の混沌から呼び出されたのだ。
オバマ政権はリーマンショックの反省から金融資本のグローバルな投機を規制し、所得再配分機能低下に歯止めをかけ、国民皆保険制度を創設しようとした。これに対し、野放しの利潤追求衝動が「規制」されるのに我慢できなくなった勢力が、失業者の不満を利用して「反ウォール街」の看板でトランプを担ぎ出した。
勝ったトランプは直ちに「反ウォール街」の仮面を捨ててウォール街から財務長官を抜擢した。法人税率引き下げ、ドット・フランク(金融規制改革) 法廃止、インフラ投資を打ち出した。ウォール街は好感し株価は急上昇、ドルも信用が回復し急騰した。日本のメディアはトランプ当選も株上昇も人事も「予想外」という。しかしここ四半世紀の世界資本主義の矛盾の深刻化からして、ありえた事態と言わねばならない。無論、ウォール街の多くはクリントン支持であった。だが、彼らも資本という物神に仕える神官に過ぎない。
日本でもかつて財閥は当初、戦争と平時の利得を天秤にかけて右翼テロの対象にもなった。だが、力関係が決するや否や戦争によって儲ける方向に走った。
トランプ次期政権は失敗した政策をさらに強引に、しかも「整合」性なしに繰り返そうとしている。株価上昇は投機資金が途上国から還流したに過ぎず、アジアの通貨危機を再燃させるだけ。リーマンショック以上のパニックも危惧される。TPPの挫折で安心どころか、日米FTAでトランプ・スタンダードを強制されるだろう。日米規制緩和競争、核武装を含む「自主防衛」論の台頭など、考えるのもおぞましい。 とは言え、米国にはサンダースがいる。反トランプ運動が若者から澎湃(ほうはい)
として起き、希望がある。翻って日本はどうか。どこかに第二のトランプが蠢(うごめ)いていないか。「米国のことではなく、あなたのことだよ」と問われている。
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