安倍内閣と与党は4月6日の衆院本会議で野党や多く国民の反対を押し切って、「共謀罪」(組織犯罪処罰法改定)法案の審議入りを強行した。話し合っただけで罪になる「共謀罪」は、一連の戦争法制の一環であり、市民監視の毒矢だ。
犯罪の「合意」は目に見えず、共謀罪は、「犯罪を実行しなくても話し合うだけで罪になる」というものだ。犯罪の合意(黙示を含む)があった瞬間に共謀罪が成立するというが、法案は窃盗や詐欺など懲役4年以上、277の犯罪を対象に共謀罪を新設する。
「合意」は意思や考えの延長で客観的に見ることができないものだから、共謀罪は内心を取り締まることになる。しかも、密告者の罪が軽くなる司法取引が盛り込まれ、摘発のために広範囲な盗聴捜査の導入など、成立すれば監視社会を招くことになる。刑法の根本を否定 近代刑法の原則は、犯罪の具体的な行動を伴う既遂や未遂を処罰することだ。その前の段階を処罰する予備罪などは、一部の重罪に限って設けてきた。現行法でも爆発物の取締り罰則に「共謀罪」、現住建造物等放火などの犯罪には「予備罪」があり、犯罪の実行着手の手前に処罰できる規定は70近くあり、現行法で十分できる。
テロ対策を前面に 安倍晋三首相は今国会冒頭、「国内法を整備し、国際組織犯罪防止条約を締結できなければ、東京五輪・パラリンピックを開けない」などと述べ、共謀罪法がテロ対策として不可欠と強調した。
だが、同条約はもともとマフィアなどによるマネーロンダリングや麻薬取引を取り締まるためのもので、テロ対策とはまったく関係がない。しかも当初の政府案には「テロ」の文言はなく、後で「テロリズム集団」を付け加えたのであり、テロ対策が目的でないことは明白だ。
しかも、同条約の批准に当たって、「共謀罪」の制定が必須の条件ではないことは、批准した国のわずか2カ国が新設しただけというから、安倍内閣の説明が虚偽であることが明らかというものだ。
捜査の手法が変質 「共謀罪」創設法案は過去3回にわたって廃案となったが、安倍内閣は「テロ対策」を前面に出すことで、廃案になった「共謀罪」と同様に呼ぶのは「全くの誤りで、一般の市民は対象にはならない」と強調する。
だが、「犯罪を合意した時点で罪になる」ことでは、かつての「共謀罪」と全く同じだ。政府は「正当な活動する団体でも、性質が組織的犯罪集団に一変すれば対象に成り得る」というが、その判断基準はあいまいで、捜査当局の裁量に委ねられる部分が大きい。
共謀罪法が成立したら警察などの捜査手法が大きく変質するという。盗聴・密告・スパイ捜査などといった手法の拡大に進むだろう。密告社会・戦争国家のための共謀罪法廃案に全力をつくそう。
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