安倍晋三首相は5月3日、改憲派の集会へのビデオメッセージで「2020年を新しい憲法が施行される年」と期限を明示、「九条一項、二項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」と九条に三項を追加する増補形式の改憲案を提唱した。
安倍首相は、「裏口入学」と批判された九六条(三分の二条項)改憲が頓挫して以来、これまで具体的な改憲項目に触れてこなかったが、ここで一気に九条改憲に踏み込んだ。日本維新などとも共通する高等教育無償化や緊急事態での議員任期延長特例も改憲項目として挙げた。
安倍首相の「提唱」自体、憲法擁護義務を定めた憲法九九条に違反することは明白だ。
憲法審の議論
与党推薦の参考人も「安保法制は違憲」とした質疑(15年6月)を契機に中断していた衆議院の憲法審査会は、昨秋の臨時国会で1年5カ月振りに再起動し、今国会で実質的議論が進められている。16年2月から中断していた参院憲法審は、昨秋臨時国会で1回開かれたが、今国会では開かれていない。
憲法審は、自民党が「改正草案」の撤回には応じないが、「草案の実現を必ずしも前提としない」と表明して民進党と折り合い、「議論すべき大枠のテーマ」に沿った形で議論が進んでいる。
参政権の保障(1票の格差、緊急事態での国会議員の任期特例、七条解散制限)、国と地方のあり方(地方自治等)、新しい人権(知る権利、教育無償化)などについて順次に議論されている。
「現時点では、これは急いで改憲しないと困るといった具体的な提案はどの党からも出ていない。変えたほうが望ましいといった議論があるのみ」(民進党の枝野幸男委員)という状況だが、改憲4党(自民・公明・維新・こころ)が両院で初めて3分の2超を占め、改憲手続法が一応整っている中中で発議が現実の課題となっている。 自民党は憲法審を隠れ蓑に「草案を前面に出さずに野党と協議し、改憲項目の絞込みを目指す」という方針であり、安倍首相の今国会の施政方針演説「憲法審査会で具体的な議論を深めよう」に呼応するものだ。
改憲原案作り
自民党は今国会で項目を絞り込み、早々に改憲原案の発議をめざしたいところだが、民進党は安倍政権の下での改憲には否定的で、現時点では項目を巡る議論に応じていない。
安倍首相の今回の憲法審への「介入」(5月3日提案)で、今後の議論がどう展開していくか要注意だ。
「憲法に密接に関連する法制について広範かつ総合的に調査を行う」べき憲法審には、憲法違反の「戦争法」や「共謀罪法案」、天皇退位に係る特例法などの徹底した「調査」こそ求められている。
憲法審を、改憲ありきの改憲原案づくりの土俵にしてはならない。
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