安倍政権は2013年、生活保護費の「生活扶助費」を3年で約670億円削減する方針を打ち出し、強行した。平均6.5%の引下げは違法とする訴訟の初判決が出たが、不当極まる内容だ。
異常なバッシング
民主党政権下の2012年春、野党であった自民党は、世耕弘成、片山さつきの両参院議員を先頭に、お笑い芸人の母の生活保護受給は合法であったにもかかわらず、不正受給とレッテルを貼り、マスコミを使って大々的な生活保護バッシングを繰り広げた。
そして、12年末の総選挙で自民党は、「生活保護制度見直しの具体案」として、「生活保護給付水準10%引き下げ」を公約として掲げて勝利した。政権に復帰した自民党・安倍政権は、社会保障審議会生活保護基準部会での検討が行われていたにもかかわらず、それを無視し、生活扶助費の削減を強行した。
立ち上がった利用者
これに対して、生活保護利用者は支援団体の協力を得て、引き下げは違憲・違法であるとして、訴訟を起こした。生活保護訴訟ではまれにみる集団訴訟で、全国29地裁(約900人の原告)で争われていたが、最初の判決が6月25日、名古屋地裁(角谷昌毅裁判長)であった。
問題ある決定方式
生活保護基準額の決定方式には、元々問題があった。厚生労働相が、告示の形式で官報に掲載するだけで良く、国会審議もないまま、実質的に厚労省の官僚が決めているからだ。
しかし、決定は憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」の具体化として拘束力を持つ。また、厚労省が自ら設置している社会保障審議会生活保護基準部会の意見を厚労省自身が無視することは、何のための審議会か根底から問われる事態と言わざるを得ない。
「国民感情」で減額
判決は、基準の引下げの手続きは「専門家の検討を経ることを義務付ける法令上の根拠は見当たらない」、当時は物価下落で「生活扶助基準が実質的に増加したと言える」と、国の主張の丸呑みだ。
さらに、原告の「生活扶助基準は合理的な基礎資料によって算定されるべきで、政治的な意図で算定されるべきではない」との指摘には、「自民党の政策は、当時の国民感情や国の財政事情を踏まえたもので、厚労省は基準改定に考慮できる」とした。政権党は、ナショナルミニマムを保障する憲法25条を無視していいというお墨付きを与えるものだ。稀に見る不当判決である。