安倍晋三前首相は退陣前の9月11日、ミサイル防衛に関する談話を発表した。談話は敵基地攻撃能力保有を含む安全保障政策の見直しを次期政権に事実上指示したもので、究極の憲法9条破壊だ。
前のめりの議論
日本のミサイル防衛は朝鮮の弾道ミサイルなどを想定し、陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の秋田、山口への配備計画を進めてきた。
ところが、河野太郎前防衛相は6月15日に配備の中止を発表した。停止の理由は、ミサイルブースターの落下問題とし、その技術的改良は時間的にも財政的に無理があるということだった。
政府・自民党は「イージス・アショア」の配備停止・軍事戦略の変更を受けて、かねて主張してきた「敵基地攻撃能力」保有の検討を再開。政府は6月24日に国家安全保障会議(NSC)を開いて、「イージス・アショア」配備計画の停止を確認し、新たなミサイル防衛の検討に入った。
一方、自民党は「ミサイル防衛に関する検討チーム」を設置し、7月31日に「提言」をまとめた。提言を受け取った安倍前首相は8月4日、「しっかりと方向性を打ち出す」とし、「談話」はその確認を意味するものだ。
専守防衛を破棄
敵基地攻撃論は1956年、鳩山内閣時に生まれたものだが、その後の政府見解で敵基地攻撃論は事実上否定され、1970年の防衛白書は「我が国に侵略があった場合」を前提とし、専守防衛を基本とした装備と防衛戦略に限定された。
攻撃型空母や長距離爆撃機などの保有はできないとし、航空機の空中給油装置等の装備は取り外すなどをしてきた。しかし、2000年代に入ると朝鮮のミサイル発射実験の対応に関する与野党の論戦の中で「敵基地攻撃論」が浮上した。
今回の敵基地攻撃能力の保有論はかつてなく具体的であり、踏み込んだものになっている。
少数閣僚で判断
自民党の提言は、「日本が攻撃される可能性が相当高い」と判断すれば、「敵が武力攻撃に着手した時点で先制攻撃する」とし、「朝鮮はわが国全域を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有」と記す。
これらの基地に先制攻撃すれば、全面戦争になる。攻撃の情報取得と判断は、9名のNSC閣僚が行う危険極まりない体制になっている。
いたずらに東アジアの緊張を煽るのではなく、専守防衛に徹し、憲法に立脚した敵を作らない外交に転換することだ。
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