防衛省資金で揺れる学術会議
軍事研究否定の声明に陰り
混迷する学術会議
安倍内閣の軍事強化志向
防衛省・防衛装備庁が大学等に軍事研究させるため2015年度、3億円の予算枠で創設した「安全保障技術研究推進制度」は、16年度政府予算で6億円に倍増。
背景に、改憲・軍拡志向の安倍政権が「技術開発関連情報等、科学技術に関する動向を平素から把握し、産学官の力を結集させて、安全保障分野においても有効に活用し得るよう、……大学や研究機関との連携の充実等により、防衛にも応用可能な民生技術(デュアルユース技術)の積極的な活用に努める……」と明記した「防衛計画大綱」(13年12月閣議決定)がある。
17年度予算案では、大塚拓・財務副大臣が部会長を務めていた、自民党国防部会が16年5月、大幅増額を提言したのを受け、前年比18倍強の110億円を、保守派財務省主計官・内野洋次郎氏が概算要求通り満額認めてしまった。
科学者が第二次世界大戦に協力した反省から、日本学術会議は1950年に「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」、67年も「軍事目的の科学研究は行わない」声明を出し、軍事研究を否定してきた。
だが学術会議は、会長の大西隆・豊橋技術科学大学長の「大学などの研究者が、自衛の目的にかなう基礎的な研究開発することは許容されるべきだ」との主張(16年4月、総会の会長報告)を受け、この見直しを検討する「安全保障と学術に関する検討委員会」(委員長=杉田敦法政大学教授)を設置。
学術会談の中間まとめ案
今年1月6日付で検討委員会が出した中間まとめ案は、以下の通り、平和憲法に則った内容であった。
@学問の自由とは、学術研究が政府により制約されたり政府に動員されたりしがちであるという歴史的な経験を踏まえ、学術研究の政府からの独立性を保障するものである。
Aとりわけ軍事研究の分野では、研究の期間内および期間後に、研究の方向性や秘密保持を巡って、政府による研究者の活動への介入が大きくなりがちであり、他の分野と同列には論じられない。
B防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」では、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って審査が行われ、職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入の度合が大きい。
C軍事目的の研究予算の増大には歯止めがなく、他の学術研究を財政的に圧迫し、基礎研究等の健全な発展を妨げるおそれがある。 この中間まとめ案を審議した1月16
日の第8回会合では、井野瀬久美惠・甲南大教授が「科学研究の『両刃』に留意すると共に、『いつの間にか戦争に動員・加担されていた』という状況を回避することに全力を注ぐべき。そうした状況が到来しないよう、声明を出すのみならず、『科学者による学術の見張り番』のような仕組みを提案する必要がある」と明言。
山極寿一京都大総長は、「科学者は国の安全保障より人間の安全保障を優先すべきだ。学術会議会員から成る倫理委員会を早急に立ち上げるべき」と述べた。
佐藤岩夫東大教授は「軍事組織からの研究資金が研究分野のバランスを人為的に歪める。若手研究者のキャリア形成に悪影響」等の危惧も表明した。
国立大交付金と不離一体
しかし大西氏は、「自衛目的の装備開発につながる基礎研究を認めるべきだ」などと持論を展開。小松利光・九州大名誉教授は「国家の安全に対して無責任な学者や大学は、もはや政治から相手にされなくなってしまう」と放言した。向井千秋・元宇宙飛行士も、これらに賛同する考えだった。学術会議が1月23日付でHPにUPした中間まとめは、前記@〜Cを概ね踏襲しつつも、「軍事研究→軍事的安全保障」と、軍事色を薄める表現に直すなど、油断できない状況になっている。
中間まとめは「国立大の運営費交付金削減等により、基礎研究分野を中心に研究資金不足が顕著となっている」と謳う。前記Cで問題にしたのとワンセットの、この兵糧攻め≠やめさせるには、野党共闘によるアベ政治からの転換が必要だ。(教育ライター・永野厚男)
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