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2017.03.28
食生活と育児
「好き」がいっぱいの人生を<中>

  

 すてきなコンサートに出逢う


 感動をさせる正体は

 娘が5歳の頃、「やりたい!」と言って始めたピアノ教室通い。コンサート前に練習を無理強いしたせいで、娘はピアノ嫌いになった。私のせいで、「やりたい」気持ちを潰してしまったと後悔したまま娘は8歳になった。 ピアノ教室をしているママ友が主催するコンサートに誘われた。「アットホームでお菓子とジュースも用意しているから、よかったらお子さんと聴きに来てね」と言われたので、娘を連れて聴きに行くことにした。 娘はきっとお菓子につられたのだと思う。舞台という形ではなく、ピアノと観客席がフラットな高さになっているこじんまりした会場だ。客席は50席もない。演奏をする生徒さんも6人だけ。
 プロジェクターでその子のスナップ写真を写しながら先生はマイクで一人ひとりの紹介をし、その後に演奏が始まる。「○○ちゃんはまだ習い始めて3カ月です。この曲は?」というように。
 小学校3年生の男の子が「エリーゼのために」を弾く番になった。その男の子は娘の一つ上で9歳だが、なんと習い始めて2カ月だという。紹介では、「○○くんはこの『エリーゼのために』を弾きたくてピアノを始めました」と言っていた。 「ピアノが初めてで、2カ月で『エリーゼのために』を完成させるのは正直難しいと思いました。でも、この曲を弾きたいという気持ちひとつで、完成まで仕上げてきたのには本当にびっくりしました」と先生は語り、演奏が始まった。
 すばらしいできあがりになっていた。始めて2カ月とは思えないほど指が滑らかに動いていることにももちろん驚いたけれど、その弾く姿を見て、その音を聴いているうちに私は心打たれて涙ぐんでしまったのだ。なんだろう? この感動させるものの正体は。

 好きがあふれている

 そういえば以前の止めた教室のコンサートでも、心打たれる演奏があった。小学4年生の女の子は他の誰よりも輝いて見えた。
 その演奏をずっとずっと聴いていたいような気持ちになった。その女の子はピアノが大好きで、勉強が遅れているからピアノを止めるように母親が言ったとき、「ピアノだけは止めたくない」と泣いたそうだ。
 その子の演奏からは「ピアノを弾くことか好きで、好きで仕方がない」という気持ちがあふれ出ていた。まるで呼吸するように自然に指が滑らかに動く。上手いとか下手とか、そんな価値観を超えたところにある演奏だ。コンサートだから間違えないように弾くだけに集中した演奏とは全く違う質のものだ。
 生きて、こうしてピアノを弾いていることが私とても楽しいの!そんな気持ちが聴く人の心の中にまで伝わってくるかのような演奏。目には見えないけれど「楽しい。嬉しい」という気持ちが、指の先からピアノに、音の中に入り込み、人の耳に届き、心に伝わってくる。そんな感じがした。 この男の子の「エリーゼのために」からも同じものを感じた。ずっと弾きたいと憧れていた大好きな曲を自分が弾けることが本当に彼は嬉しいのだ。だから、聴いている私の心が彼の嬉しい気持ちに揺さぶられて感動したのだ。

 ミュージカル始まる

 いい演奏を聴けた。よかったなぁ、と余韻に浸っていると、生徒たちのミュージカルが始まった。ピアノのコンサートにミュージカル!? と驚いている間に、子どもたちが衣装を着てどんどん出てくる。
 演目は「ライオンキング」。去年は「マンマ・ミーア」だったらしい。先生の伴奏で、子どもたちが歌い踊る。そのすばらしいこと! エネルギーに満ちあふれていて、どの子も生き生きとしていた。予想外の失敗ありアドリブあり、笑いも感動もあるすばらしいミュージカルだった。
 その後はジュースとお菓子を囲んで歓談タイムとなった。娘はウハウハ食べて飲んでいる。こんなコンサートがあるなんて。娘もきっと驚いただろうなぁと思った。
 その夜、娘に「どうやった?」と聞いてみた。
 娘は「あの教室でピアノを習いたい。私も来年ミュージカルで歌う」と言った。そこ? ミュージカルかい! まぁいい。こうしてまた娘はピアノを習うことになったのだ。
 次こそ娘の「やりたい」という気持ちを潰したりはしない、と心に誓った。(愛内マミ)