蒸気配管に破損の恐れ 直下には断層も
野田内閣は6月15日、国民の大半の「反対」の声を無視して関西電力大飯原発の運転再開を決めた。前新社会党理論委員会担当中執の原野人さんに「大飯原発の危険」を明らかにしてもらった。
原子力マフィアの親分たちと強い絆で結ばれ、その政治部を仕切ってきた民主党の仙谷由人政調会長代行は、「再稼働せず脱原発すれば、原発は資産から負債になる。企業会計上脱原発は直ちにできない」と主張する。
原発は、戦争に似ている。戦況がいかに悪化し、敗戦が決定的となっても、推進してきた責任者たちは止めたら終わりだ。
降伏を先延ばしして、軍艦も戦闘機も資産として使える限り使おうとする。国民の命を虫けらのごとく浪費する。軍事産業は稼げるだけ稼ごうとする。せめて数カ月早く降伏していたら、東京大空襲も、沖縄戦による犠牲も、阪神大空襲も、広島、長崎の被爆もなかったものを。
最初から不良資産
原発は、本当は当初から大きな不良資産(負債)だった。原発列島で、いずれ重大事故の起きることは予想されたからこそ、人口稠密な都会は避けて、わざわざ送電コストのかかる遠方に造られたし、保険会社からは逃げられて、特別な損害賠償制度も作られた。
福島原発は昨年まで稼働したことによって、隠しようもない巨大な不良資産であることが全ての人の目に明らかになった。これほど拡大された巨大な不良資産を、改めて西日本でも再生産しなくてはならないのか。
当面、幸運にもこれ以上は大事故が起きなくとも、再稼働するほどに、原子炉本体も、周囲の設備も放射能で強く汚染される。汚染源は核分裂生成物(セシウムやストロンチウムなど)やプルトニウムばかりではない。
原子炉本体も内部設備も、稼働するほどに強い中性子線を浴びることによって誘導放射能を生じ、鉄やコバルトやニッケルやマンガン等々の放射性同位元素ができる。
メルトダウンした核燃料を取り出すことは別として、原子炉や付帯設備の解体撤去だけでも、多くの人命を短縮する大変な被曝作業となる。しかも外部に放射能を拡散しながら、各種の放射性廃棄物を大量に生み出す。
広島2400発分
さらに重大なことには、再稼働は大飯3、4号機(2機で236万kw)だけでも、1年で、広島に投下された原爆が発生させた死の灰の2400発分の死の灰を生み出す。たった2カ月の「限定的な」稼働でも、原爆400個分の死の灰が、使用済み核燃料棒の中に生産される。
これは再処理してもしなくても、高レベル放射性物質として、安全に処分する方法はない。いたるところ活断層や地殻変動があり、地下水も豊富で、火山帯も走るこの地震列島で、埋設廃棄処分などできようはずもない。何十万年にもわたって建造物の中で厳重に管理保管しなくてはならない性質のものだ。
このような原発が、資本にとっては、稼働させる限り利潤を生むから資産だという。停止したら負債になるという。国民にとっては稼働させるほどにひどい負債となる。脱原発を先延ばしするほど、深刻な負債となる。
15年間で減価償却
しかも原発は優遇税制により15年間で減価償却される。大飯3、4号機もとっくに減価償却され、ゼロの資産になっているはずであるが、核燃料に加えて改造や補修等を大きくとり、総括原価方式の電気料金で、大いに儲けている。一般家庭等には大企業の2倍もの高い独占価格で売りつけ、4割に満たない販売電力量から利潤の9割を得ている。
仙谷氏は、6月2日のBSテレビ朝日で、大飯原発は三菱が造った新しい加圧水型だから、沸騰水型の古い福島原発に比べて十分安全だという趣旨を述べた。
ところが「米サンオノフレ原発3号機で、蒸気発生器の配管に破損の恐れがある部分が計7カ所発見されていた。…加圧水型で、蒸気発生器は三菱重工業が製造し、2010年に納入した」(東京新聞3月18日)と報じられている。
同じ三菱が大飯(3号機は91年、4号機は93年運転開始)より最近に造った原発でも、このような有様である。冷却材喪失事故に関わる箇所で、加圧水型の弱点も美浜1号機(運転開始は70年で、東電福島第一の1号機より数カ月古い)以来少しも解消されていないのである。中性子等による脆化は、大型炉ほど重大になる。
美浜3号機の事故
地質専門家による最新の調査では、大飯1、2号機と3、4号機との間にある断層は活断層であり、3、4号機直下にも断層があり、近くの海域や陸地にある熊川断層などと連動する可能性があるという。そうだとすると、主要配管の連なる原子炉とタービンを土台ごとずらして破壊し、暴走させる恐れすらある。
なお、04年8月に起こった関電美浜3号機の蒸気配管破裂事故を想起されたい。5人の命を奪い6人に重傷を負わせたこの事故でも、関電と三菱重工の責任関係も明らかにされないままである。
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