四国伊方原発の脅威
「原子力規制庁との院内交渉集会」(再稼働阻止全国ネットワーク主催)に1月20日、参加した。
昨年6月に続く今回の交渉では「原発再稼働についての『立地・周辺地域』の了解」がテーマだった。
私の住む愛媛県では、四国電力伊方原発3号機(プルサーマル発電)が規制委員会に再稼働を申請し、審査を受けているところだ。
瀬戸内海沿いを走る下り列車の車窓からは、進行方向はるか左手に伊方原発を、そして右手には松山平野を一望できる。距離にして約60キロ。真っ青な海原には遮るものがなく、天気次第で風は一気に伊方から県都松山市に吹くだろうと実感する。
狭い国土の海に面して建てられ、稼働可能な48基の日本の原発。そこで過酷事故が起きれば、放射能は全土におよび、被曝によって遺伝子を傷つけられた生き物たちは世代を超えて健康被害に脅かされ続けることになる。実際、2011年に事故は起きた。いまも東電福島第一原発では溶け落ちた核燃料がどこにあるかも分からず、液体核燃料≠ニ呼べるほどの高濃度放射能汚染水が太平洋に垂れ流しのままだ。
伊方の場合、日本一長い佐田岬半島の根元にある原発で事故が起きれば、瀬戸内海という閉鎖水域への汚染水流出に加え、半島全域の5000人が一瞬にして逃げ場を失い、生命の危険にさらされる。一人も被曝させずに一斉避難などできないことを、自治体も認めている。
原発事故は絶対に起こしてはならない。事業者も国も、誰も、原発事故を収束させることができないのだから。事故現場は高線量の被曝を強いられる「生き物が住めない場所」になる。原子力防災では事故が起きてからどんなに対策を講じても手遅れなのである。
原発再稼動の了解は
原発立地自治体と周辺住民が原発の再稼働を了解するか否か、それは規制庁の「規制基準」を満たした原発では絶対に事故は起こらないのか?ということにかかっている。
昨年7月の愛媛県の伊方原発環境安全管理委員会注の全体会では、委員の一人で伊方町の隣接自治体の八幡浜市議会議長から「新規制基準を満たせば安全と言えるのか?」と質問が出た。しかし、そのとき規制庁から「事故は起こらない」という回答はなかった。
そこで、今回の交渉で、規制庁に同じ質問をした。立地自治体住民として、事故の危険性を前提にして再稼働を受け入れることはできないからだ。
規制庁の致命的回答
質問「規制基準を満たした原発でも事故は起きますか?」
以下、その回答と、当日の交渉で規制庁が答えた内容のあらましである。
規制庁 「規制基準」を満たした原発でも事故は起きます。この基準は最低のもので、あとは事業者の責任です。規制庁の役割は審査することであり、審査結果と審査過程を国民に丁寧に説明していくまでで、地元了解をとることはしません。
地元への「説明」と「了解」は切り離すというのが政治的判断です。政治的判断を含む了解手続きに、規制庁はタッチできません。……放射能の拡散シミュレーション・モデルにも限界があります。その結果、どうするかは自治体と住民、および事業者で判断してください。
容認できない規制庁答弁
この答えから分かる通り、規制庁には一つ致命的な視点が欠けている。それは、世界最悪の原発災害がいまだ収束していないにもかかわらず、原因究明も総括もしないまま、原発事故が起きることを前提に、最低レベルの基準で原発の再稼働審査をするという、規制庁にあるまじきことをしているということ、何よりもその自覚のなさである。
しかも、「住民の了解」に関与しないといっても、自分たちが合格を出した原発で事故が起きれば、多くの生命が被曝に苦しめられ、住む場所を奪われるといった被害が伴うのである。一国の原子力規制機関として、これも全く社会的に受け入れられない。
規制庁は、立地自治体とその周辺住民の生命と財産を守るために原子力を「規制する」という最も大切な使命を果たしていないのである。規制委員会の再稼働へ向けた審査が進んでいる今だからこそ、「基準に合格した原発でも事故は起きる」と規制庁自らが認めたことを、一人でも多くの人に伝えたい。
東電福島第一原発事故の収束、原因究明と総括をすることが、原発事故が絶対に起こらないようにするための原子力防災対策である。原発の再稼働審査の前に、規制庁と日本の原子力行政こそ国民の厳しい審判を受けるよう、強く求めたい。
注愛媛県伊方原子力発電所環境安全管理委員会:原子力規制委員会による四国電力伊方原発3号機(伊方町)の再稼働審査を検証する。環境専門部会委員と原子力安全専門部会委員を含む31名の委員で構成。
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